第2話 勇者リードハルトが弱すぎる

 俺はカーライル。


 魔界の王デスカールの1人息子にして、強大な魔力を持つ、魔界のエリート中のエリートだ。


 偽善ぶったクソ勇者のリードハルトから、この魔界を守っている。


「カーライル様、お疲れではないですか?」

「また部屋に遊びにいってもよろしいですか?」


 はは、可愛いサキュパスたちだ。


 まぁ、クソ勇者からみんなの生活を守っているのだから、感謝されるのは当たり前か。


「カーライル、お前に頼みがある」

「父上、なんでしょうか」


 魔界の王デスカールにも、頼りにされている。


「最近、人間界の勇者リードハルトが力をつけているらしい」

「ああ、あの偽善嘘つきクソ勇者ですね」

「そうだ。偵察隊の情報だと、新しい技や魔法を習得して、前よりも確実に強くなっているようだ」

「ふっ、あんなクズ野郎がどんなに強くなったところで、何ともなりますまい」

「確かに、お前には敵わないだろう。だが、魔界の魔物の中には、勇者の餌食になってしまうものもいるだろう」

「わかりました。そのクソ勇者をボッコボコにして差し上げましょう」

「おお、カーライルよ。頼んだぞ」


 デスカールはいつも俺を頼ってくる。

 それは、俺が息子だからじゃない。

 俺が強いからだ。

 生まれつき凄まじい魔力を持つ俺は、勇者リードハルトから魔界を守るための切り札的存在になっている。

 まぁ、それも仕方がないことだ。

 これだけの才能に満ちている俺が頼りにされない方がおかしい。


「カーライル様、また勇者退治に行かれるのですね。お気をつけて」

「カーライル様、この前は人間から守っていただいて、ありがとうございます」

「カーライル様、早く戻ってきてくださいね。カーライル様がいないと寂しいです」

「ああ、俺はこれから勇者退治に行く。すぐに戻ってくるから、少しだけの辛抱だぞ」

「はい!」


 サキュパス、エルフ、マーメイド。

 魔界でも最も美しいとされる種族の女たちは、みんな俺に憧れている。


「はああぁ、ユート」

 俺は移動魔法を唱えた。

 一瞬で目的地まで移動できるチート魔法だが、こんなすごい魔法も何の苦労もせずに習得している。


「カーライル! 現れたな」

「リードハルト、お前も懲りないヤツだな。この前、3秒とかからずに俺の火属性魔法で丸焼きにされたのを、もう忘れたのか」

「何! あれから修行したらからな。今後はそうはいかない」


 リードハルトは剣を鞘から抜いて、俺に斬りかかってきた。

 はっきり言って、動きが遅すぎて話にならなかった。


「リードハルト、そんなものか。何も変わっていないじゃないか」

「くそ、当たらない。どうして。あんなに修行したのに」


 リードハルトの弱音を聞くたびに、俺の心は喜びに打ち震えた。

 クソみたいな人間界を守るために戦う勇者が、こんなに弱いとは。


「どうした、リードハルト。また負けるのか?」

「うるさい! お前みたいなヤツがいるから、人間界は…」


 リードハルトの偽善ぶった台詞は聞き飽きた。

 コイツは同じことしか言わない。


「そろそろ、決着をつけてやろう」

「何!」

「くらえ! エビルファイア」


 エビルファイアは初級の火属性魔法だ。

 魔界の魔物なら使えるヤツも多いが、威力は使用者の魔力によって大きく異なる。

 俺くらいの魔力を持つものが使えば、普通のヤツの最上級魔法クラスの威力があるのだ。


「ぐわあああああああああああ」

「いいぞ、リードハルト! もっと苦しめぇ」


 リードハルトが俺の炎に焼かれる光景を見るのは、何度目だろうか。

 コイツは弱すぎて、初級魔法しか使ったことがないが、いつもこんな感じで断末魔のような叫び声をあげながら苦しむ。

 ま、ヒマつぶしにはちょうどいい相手だ。


「クソ、撤退する」


 リードハルトは袋から何かを取り出して、空へ放り投げた。

 多分、移動アイテムだろう。

 勇者なのに移動魔法も使えないとは、何とも情けない話ではあるが、リードハルトにはお似合いだ。


「カーライルよ、もう倒してきたのか?」

「はい、初級魔法1発でしたね。ワンパンってやつですよ」

「おお、さすがはカーライルだ。これで、この魔界は安泰だな。ハハハ」


 デスカールに感謝された俺は、自分の部屋に戻った。


「カーライル様、部屋に入ってもいいですか?」


 サキュパスか。

 だが、俺はサキュパスと遊ぶ気になれなかった。

 ちょっと1人になりたかったのだ。


「いや、ちょっと1人にしてくれ」

「わかりました。ではまた今後、相手をしてください」

「ああ」


 また、あの弱っちい勇者の相手をすることになると思うと、少々うんざりしてくる。

 だが、これも仕方がないこと。

 俺以外に、この魔界を守れるヤツはいないのだから。

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