ナナデイサンウィーク

最早無白

ナナデイサンウィーク

 午前三時五十九分。俺は携帯を握りしめ、その時を待つ。

 明日でリリース七周年を迎えるアプリゲーム、Tuner Bulletチューナーバレット。その繋ぎのイベントである『ナナデイサンウィーク』は、通常のランキングともう一つ、獲得したポイントを一日ごとに集計する『デイリーランキング』が行われ、上位者には記念の称号が配布される。

 そして最終日のデイリーランキング一位称号、『7th Beginningセブンス・ビギニング』。世間一般で言う所の『ガチ勢』である俺としては、決して無視できない特別なモノだ。


 午前四時。『チュバレ』の文字の真上に位置するアイコンをタップし、アプリを起動。お、今回はすんなりログインできたな。

 去年はプレイヤーが一斉にログインしすぎて、サーバーがダメになっちゃったんだよなぁ……あれから一年か、懐かしいな。


「おはようございます! 今日もバンバン奏でちゃいましょー!」


 ログイン画面には俺がよく使うキャラで『最推し』のリリちゃんが元気に

跳ねている。ボーナスのコインを貰うと、イベント画面に移動。追加されたイベントストーリーを読むことで、デイリーランキングの参加資格を得る。

 タップした後にストーリーをさっさとスキップをしてもランキングには参加できるのだが、最終日くらいはしっかりと目に焼き付けておく。まあ、終わった後にも読めるんだけど、その時のノリっていうのもあるからね。


「あと一日だ! お前らの弾丸で、七周年の幕開けを最ッ高に奏でてみせろ! いくぜ……ナナデイサンウィーク! ラストバレットォォォォ!!」


 最後の戦い、その始まりが訪れた。

 チュバレは所謂『音ゲー』で、通常の『アサルト』に加えレーンが長いことで後ろのノーツがよく見える『スナイプ』、逆にレーンが短く余計な情報を遮断できる『ピストル』の三つのモードで遊べる。ちなみに俺は他の音ゲーにも対応できるようにクセのないアサルトタイプでプレイしているが、チュバレのみプレイしている人達はどうやらピストルタイプの方がやりやすいらしい。

 そしてチュバレのもう一つの特徴は、最大四人のチームを組んで銃撃ライブを行えるということだ。チーム自体は組んでいるのだが、協力銃撃を約束した六時までは約二時間弱ある。それまで俺は一人ソロでポイントをちまちま稼ぐ。


「ふぅ……。ちょっと休憩、っと」


 時刻は午前五時四十八分、そろそろ協力銃撃の時間か。グループCHAINEチェインに『そろそろやりますか?』とメッセージを送る。俺は今日有給を取ったから最終日を心置きなく走れるが……。他のメンバーの素性はよく分からないからなぁ。


「いいですね」「やりますかっ」「おっけ~」「じゃあ貼りますね」

 

三者三様の返事を貰ったところで、俺はプライベートルームのコードを送る。さあ……本当の本番はここからだ!


 ――午後九時。『ナナデイサンウィーク』、最終日が終了した。


「お疲れ様でした!」「お疲れ様です」「おつ~」「久々に走ったぁ」


 グループCHAINEではお疲れメッセージが飛び交っていた。俺のチームは四人全員が高ランカーということもあり、『ヤバいチームがいる』とちょっとした話題になっていたとかいないとか。普段からこっそり組んでいたが、称号欲しさにガチってしまったせいでバレてしまったらしい。


「そういえば、明日のリアルイベって行きますか?」


「行きますよ」「アタシもトーマと一緒に行く」「私も行くよ」


 話の内容は明日開催されるチュバレの七周年を記念したリアルイベントについて。俺は仕事終わりに行くつもりだったので、みんなと会えないかなと軽い気持ちで振ってみたが、どうやら三人とも行くつもりのようだ。

 しかもリミさんとトーマさんは一緒なのか……家が近いのかな?


「俺も行くので、よかったら集まりませんか?」「「「集まる!」」」


 日付は変わって、今日はチュバレの七周年当日。いつものようにリリちゃんからの挨拶を貰い、プレゼントボックスを開く。称号を二つ受け取り、早速プロフィールを更新。『7th Beginning』と『ナナデイサンウィーク 1位』が光る。

 と、余韻に浸っている暇はない。鞄に仕事道具とイベントのチケット、電源をオフにしたスマホを入れ、銃撃ではなく仕事へと向かう。いつリリちゃんの新規イラストが来てもいいように……将来のためにね。


「先輩、目ヤバいっすよ。昨日休んだんじゃないんですか?」


「ああ、ちょっと休みを満喫しただけだ」


 休憩時間、エナジードリンクを片手にCHAINEを確認する。三人はもう現地に着いているようだ。イベントの開始時刻は午後六時からなので、おそらく物販に並んでいるのだろう。俺は既にオンラインショップでリリちゃんの書き下ろしクリアファイル&アクリルスタンドをゲットしているので心配ご無用だ。


「ああ、やっぱりソレやってたんすね。うわっ、最終も一位もとってるし……」


 いつの間にか癒しを求めてリリちゃんを愛でていた。無意識ってのは怖いね。


「おう、獲ってやったぜ。今日はこの後リアルイベに行く」


「マジすか。下手にイキってシバかれないようにしてくださいね」


 残りを飲み干し、エナジーを注入する。あと何時間か、耐えろ俺!


 ――午後五時。一応の終業時間を迎える。さて、ここからどう会社を抜け出す? 会場は徒歩でここからおよそ十五分。余裕を持って五時半までには上がりたい……。


「効率悪っそう……。今日は代わりにやりますよ、7th Beginningさん」


「マジでありがとう……あと、ここで言わないでよ……」


 後輩くんのおかげで開場までには間に合いそうだ。三人にも『間に合いそう』とメッセージを送り、焦らず急ぐ。


「着いた……」


 一年ぶりの会場、相変わらずの人混みだなぁ。それだけチュバレが人気のコンテンツということと考えると、一プレイヤーとしてはやはり嬉しいものがある。集合場所には既にメンバーと思しき三人がいた。


「えっと、あなた達が……」


「あ、トーマです!」「アタシがリミでぇ」「私がミヤコっ」


「よかった、間違ってなかったぁ……」


 Tuner Bullet、その7th Beginningは最高の仲間とともに。

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ナナデイサンウィーク 最早無白 @MohayaMushiro

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