第66話 初版

「岸本さんから初版が贈られてきたよ」


「みせて、あ、ちゃんと二冊贈ってくれたのね」

「僕たちがモデルになってるんだし、それくらい当然だよ 笑」


本を開くと、彼女の登場シーンから始まっていた。


「わたしが絶世の美少女になってるんだけど、も、盛りすぎだよね……」


(クス。本当はまんざらでもないくせに)



「岸本さんも、自分は本名で登場させて、ちゃっかりイケメンになってるしね 笑」


「なんだか、こうやって読むと、恥ずかしい……よね」



二人並んでソファーにすわり、僕たちは岸本さんの最新作を読んでいる。


岸本さんは僕の大学の先輩で、卒業後は編集の仕事の傍ら作家活動をおこない、去年、作家デビューを果たしていた。


そして、第二作は僕たちをモデルに描いた恋愛小説で、その初版が僕たちに贈られたというわけだ。



「それにしても、『不倫研究サークル』って題名、どうにかならなかったの?」


「どうも良い題名が浮かばなかったらしい、それに、あのサークルは僕と岸本さんの接点だしね」


「わたしは、どうせ書くなら江の島でのプロポーズまで書いて欲しかったな~」



「笑 誰かさんが頑固なおかげで、あの後まで書くともう一冊本ができちゃうよ。 それに、『なんで江の島まで行くんだ?』て散々文句を言ってたのは誰だっけ?」


「だって~、なにも言わないで『今から江の島まで行こう』なんて、コンビニでも行くみたいに言い出すんだもの」


「そりゃ、サプライズだからね」



「でも、嬉しかった……、初めてのデートの時に決めてたんだね」


「うん。ここで夜景を見ながらプロポーズしようって考えてたら、君は『なにをニヤケけてるんだ?』て言ったけどね」



彼女が僕の手を握り、肩にちょこんと頭を乗せた。


「あの時、あなたとこんなふうになれるなんて、思ってもなかった」


僕も、ギュッと彼女の手を握りかえす。




「あ!」


「どうしたの?」


「今、動いたの!」


「え、どこ? どこ?」


「ほら、ここ」


彼女は握っていた手を大きくなったお腹の上に導く。


「うお! いま、ポコッて感触があった」




彼女のお腹の中で、小さな命が躍動し始めている。



もうすぐ、新しい物語が始まる。



今度は、三人で。






----- 終わり -----





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不倫研究サークル ~大学生編~ むかいぬこ @mukainuko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ