第35話 二人目の女性

翌朝。


「陽菜……」


「陽菜……」


陽菜には午後から登校させる予定だった。

その為には9時の電車に乗らないと間に合わない。


だが、陽菜は熟睡していて、なかなか起きてくれなかった。

しかも、僕に抱きついた状態で寝ているため、僕も身動きが取れない。



「陽菜……」


「んん……、なに? さっきからうるさいな」


「『うるさいな』じゃないよ、起きてくれ」


「今、何時?」


「6時かな」


「はあ? まだ夜中じゃない! まだ欲情してるの?」


「バカ、これから東京に帰って、陽菜は学校に行くんだろ」


「あ……、そっか、でも、なんでワタシと一緒に寝てるわけ?」


「君が僕の布団に潜り込んできたんだろ」


「そうだったっけ?」


「そうだ、だから、早くどいてくれないか?」


「ねえ、触っても良い?」


「な、なにを?」


「アレ」


「バカ、ふざけるな」



「あはは、冗談だよ 笑

ああ~~、学校、行きたくないな~」


と言いながら、陽菜はムクリと身を起こした。

寝ぼけた顔でポリポリと頭を掻く姿は、なんだかんだ言っても、やはり子供だ。


ところが、すこし開けた浴衣から白い肩が覗いていて、そこが妙にエロい。

それに朝の生理現象が反応する。



「どうしたの? 圭も早く起きなよ」


「さ、さきに準備してくれ。ほら、女の子は時間がかかるだろ」



しばらく布団から出れそうになかった……。





~・~・~





何とか、予定通りに電車に乗り、陽菜を自宅へ送り届けることができたのはお昼前だった、


「圭君、お疲れ様だったわね。ごめんなさいね、学校を休ませちゃって」


「いえ、僕は良いんです。大学は結構、自由ですから」


「ああ~~、ワタシも休みたいな~、もう一泊したかった」


「なにを言ってるの、陽菜ちゃん。あなたは【子供】なんだか、ちゃんと学校へ行きなさい」


チッ、と言うような顔をして陽菜が佳那を睨む。


「圭、ありがとう。 ワタシ、凄く楽しかったよ」


「え……、あ、ああ」

冷汗が出る思いをしながら、佳那の表情を伺うが、相変わらずニコニコしている。


「じゃあ、行ってきま~す。

あ、そうだ、圭、途中まで一緒に行こう」


僕も、昨日は眠れなかったので、早く帰って眠りたい気分だった。


「そうだな、じゃあ、佳那さん。僕も帰ります」


僕もそのまま帰ろうとしたのだが、そうは簡単にはいかない。


「圭君、せっかくだから、昼食を食べて帰ったら?」

「ちょっと! ママ! 圭は疲れてるんだよ、帰してあげなよ」


陽菜が素早く反応を示す。


「あら、だったら、なおのこと、家でご飯食べて帰れば、直ぐに寝れるんじゃない?

陽菜ちゃん、早くいかないと遅刻するわよ」


「陽菜、せっかくの好意だし、ご飯食べて帰るよ、遅刻しないように行くんだよ」


二人に諭され、陽菜は渋々と出ていった。


「余り物しかないから、大したものは出来ないけど、ソファーに掛けて待ってて」


「ありがとう……、ございます」


ところが、ソファーに腰かけると、途端に睡魔が襲ってくる。



僕は、そのままウトウトとしてしまった。





~・~・~





「圭君……


圭君……」


肩を揺さぶられて、僕は目を覚ます。


「あれ? 僕、寝てました?」


「ええ、五分も寝てないけど……、眠いのなら、こんな所で寝てはだめよ」


「すみません、昨日、よく眠れなかったものですから」

「あら、陽菜ちゃんがまた、わがまましたんでしょ」


「あ、いえ、そういう事では……」


一緒に寝てたなんて、とても言えない。


「少し、休んだ方が良いわね。こちらへいらっしゃい」


「あ、いえ、大丈夫です」


しかし、佳那は僕の手を引き、リビングから連れ出そうとする。


「無理しないの、来て」


有無を言わせないところは、陽菜とよく似ている。この母親に娘、やはり母娘だと思った。


佳那は、廊下に面しているドアを開けると、僕を中に招き入れる。

中には、大きなベッドがあり、佳那の匂いがこもっていた。


「あの……、ここは?」


「わたしの寝室よ」


後ろ手でドアを閉めながら、佳那は言った。彼女の目が心なしか妖しい色を帯びている気がした。


「え……と、つまり……、ご夫婦の寝室……ですよね」

「ええ、でも主人は年に数回しかここで寝ないから、わたしの個室みたいなものよ」


たしか、陽菜も父親は海外にいて年に二回ほどしか帰らないと言っていた。


「いや、ここで寝る訳には」


僕が遠慮すると、佳那は距離を縮めてくる。今日は特に香水が強い気がする。


「わたしの寝たベッドを使うのは……、イヤ?」


抗う事もできず、大人の香水の匂いに硬直していると、「さあ、座って」と佳那が僕をベッドに押し倒す。


クッションの効いたベッドの上で、二人の身体が弾んだ。



そして佳奈は……、僕にとって二人目の女性となった。




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