第36話 合コン
「森岡~」
僕は講義へ出席した後、昼食をたべようと学食へ向かっていた。
声をかけてきたのは不倫研の先輩、岡田だった。
「あ、岡田さん、お久しぶりです」
岡田とは、月に一回の『会合』と呼ばれるサークルの集まりで顔を合わせて以来であった。それにしても、不倫研究会というサークルは人妻との合コンと『会合』以外に活動内容が良く分からないサークルだ。
あまり在籍する意義はないな、と最近思い始めていた。
岡田が声をかけてきた目的も、おおよその検討はついている。ニ~三日前、第三回目の合コンを開催するという内容のグループメッセージが送られてきた。
僕はまだ返事をしていなかったので、そのことだろうと思った。正直、また人妻と合コンなんて遠慮したい気分だった。
何しろ、僕は既に佳那と不倫関係にあるのだから。
「すみません、岡田さん、メッセージに返事できなくて」
「いいんだ、いいんだ、気にするな。
それより、森岡よ、今度の合コンは是非とも参加してくれよな」
「はあ……、それなんですが」
「ああ、分かってるって、今はそんな気分じゃないんだろ?
俺にも経験があるけど、失恋ってキツいからな」
先月の『会合』、小梢と別れたばかりで、僕は空元気を発していたのだが、直ぐに先輩たちに見透かされ、小梢と別れたことは話していた。
そのことを岡田は言っているのだろうとは、直ぐに分かった。
だが実際は、もうこれ以上人妻と知り合いになる事を避けたいだけだった。
何と言えば良いか、僕は口ごもってしまう。
「今度はな、うちのサークルには珍く、女子大生が相手なんだ」
岡田は、自慢げにニヤリと口角を上げた。
女子大生、と聞いて僕は思わず反応してしまう。
考えてみれば、僕は未だに『恋人いない歴=年齢』なのだ。
小梢との関係は『嘘の恋人』、陽菜とは恋人に慣れない、そして佳那とは不倫関係で、未だに普通の恋人関係を構築できていない。
「(なのに、経験人数が二人ともいうのも変わった経歴でもある)
珍しいですね、てっきり、また人妻が相手かと思っていました」
「だろう~、苦労したんだぜ。
先月、お前が失恋したって言ってたから、岸本や田沼さんと話してな、なんとか元気付けようって、片っ端から当てを探したんだ」
「え、僕のためですか?」
「そうだよ、お前の落ち込み様が、あまりにも酷かったからな、皆、心配してたんだぜ」
何を考えているか、つかみ処のない先輩たちだが、そんなに僕の事を心配してくれていたのかと思うと、嬉しい気持ちになった。
「あ、ありがとうございます」と、僕は少し涙ぐむ。
「それでな、相手の女子大生なんだけど、4月の合コンで一緒になった今村さんの娘さんと、その友達なんだ。全員、明媚大学の一年生だ」
一年生という事は、僕と同学年だ。という事は新しい出会いがあるかもしれない。
「お前が気に入った子にアプローチできるように、俺たちが援護するからな。
頑張って、新しいカノジョを作れよ」
たしか、岡田も恋人はいないはずだ。それなのに、僕を優先してくれるというのだから、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうございます、岡田さん。僕、先輩方になんと感謝して良いのか」
「感謝するには、まだ早いぜ。それに、その女子大生なんだけど……」
岡田が口ごもる。
「なにか?」
「全員、リケジョなんだ」
リケジョ……、さっきまでの高揚とした気分がやや薄れ、僕に一抹の不安がよぎった……。
~・~・~
岡田と会った週の金曜日。
その日は、不倫研究会に入ってからの三回目の合コンが予定されていた。だが、僕にとって今宵の合コンは特別なものだった。
大学生になって初めて経験する、女子大生との合コンだ。期待はあるが、相手がリケジョというこで、不安も大きかった。
僕にとってのリケジョ、いわゆる理系の女子の印象は、すこぶる悪い。
高校時代、僕が所属するクラスは国公立進学クラスで理系と文系が一クラスにまとめられていた。
クラスでも少数派だった理系の女子は、少ないのだからお互いに仲良くすれば良いのに、常に自己中心的な行動をとり、身勝手にふるまう。更には、文系男子を見下すような態度を取っていた。
僕がクラスでもトップの成績であったにも関わらず、自己主張できない僕がターゲットにあい、散々嫌味を言われ、理不尽な屁理屈に悩まされたものだ。
そうだ、可愛くない陽菜がたくさんいて屁理屈をこねている感じだ。
LEDライトの光を反射させた度の強い眼鏡の奥に、冷たい瞳を宿す。
それが、僕のリケジョのイメージだ。
学校で不倫研の先輩たちと落ち合い、それから新宿へと向かう。山手線の電車のなかで、岸本にカテマッチの事で話をされた。
「森岡君、宮下さんが君に会いたがっていたよ」
「はあ?」と言って、僕は綾乃と最初に出会った時の事を思い出した。
カテマッチに登録した日、綾乃と一緒に食事に行き、綾乃をデートに誘うと約束していたのだった。
その後、小梢とのこともあり、すっかり忘れてしまっていた事を思い出した。
「なんとなく、心当たりがあるので、今度、顔を出してみます」
「頼むよ、宮下さん、なんだか森岡君のことがお気に入りみたいだから」
と言って、岸本はイケメンのスマイルを僕に見せた。
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