第34話 ゲームオーバー
風呂からあがり、部屋に戻ると夕飯の支度が出来ていた。
「うわ~、すごいご馳走だな」
僕は感嘆の声をあげるが、陽菜は何か企んでいるようにニヤニヤしている。
「どうしたんだ、さっきからニヤニヤして?」
「えへへ~」
「な、なんだよ?」
「じゃ~~ん~~」
陽菜が、どこから持ち出したのか、缶ビールを掲げた。
「ちょっ、陽菜。いつのまに、そんなものを」
「えへへ~~。さっき、自販機で買っておいたんだ」
「誰が飲むんだよ?」
「もちろん、ワタシと圭だよ」
「ダメだろ、僕らはお酒を飲めない年齢なんだし」
ヤレヤレといった表情で陽菜は何時ものように目を細める。
「あのね、この缶ビールを一缶飲んだだけで、誰かが迷惑を被るわけ?」
「いや、それを売った人が、未成年に販売したって怒られるだろ」
「ザンネン~、売ったのは機械だもん 笑」
(くっ! またしても屁理屈を!)
「圭はさ、クソ真面目すぎるんだよ。みんな、飲んでるって、少しくらい」
「そうなのか? 陽菜も飲んだりするのか?」
「たまにね、ママに付き合ってあげるの。ママ、寂しみたいだし~」
確かに、夫がずっと不在で、しかも一緒に居るのが陽菜みたいな扱い難い娘では
佳那もストレスが溜まりそうだと妙に納得した。
「しかしだな……」
「はいはい、つべこべ言わない」
陽菜は有無も言わさず、グラスにビールを注ぐ。
「じゃあ、カンパーイ」
グラスがぶつかり、キンと鳴った。
「くは~~、この一口がたまらない!」
(いや、お前はオッサンかよ?)
陽菜は、唇に着いた泡をペロリと舐めながら、僕の様子を伺う。
「飲まないの?」
「お、おう、飲むぞ」
僕もグラスに口をつけたが、ビールは江の島で飲んで以来だ。
しかも、美味しくない、という記憶がインプットされている。
だが、JCを前に無様な姿は見せられない。僕はグビグビと喉を鳴らした。
「あれ?」
「どうしたの?」
「なんか、美味いな」
「でしょ? おふろ上がりのビールって、美味しいんだって」
陽菜の笑顔にドキッとする。浴衣の陽菜はやはり超級美少女だ。
「な、なに?」
「なにが?」
「なんか、見つめちゃって、キモチワルイ 笑」
「なんだよ、ヒドイな 笑」
「まさか、ワタシに欲情してるとか~?」
「バカな事を言うなよ! そんな訳ないだろ」
「でもさ~、お風呂でワタシが水着を脱いだ時、チラチラ見てなかった?」
陽菜はよくやる『アヤシイ』と言いたげな目で僕をみた。
確かに、あの時気になってはいたが見てはいない。僕が反論しようとすると、構わず陽菜が続けた。
「この際だから聞くけど、圭はワタシの事をどう思ってるの?」
そうやって、改めて聞かれると戸惑う。
「そ、そりゃあ、可愛い生徒……かな。
いや。分かった、正直に言うよ。陽菜は可愛いし良い子だと思う。僕が同じくらいの年頃の男子なら間違いなく好きになっていると思う」
「ワタシの事、好きなんだ」
「いや、よく聞けよ。『好きになっていた』と思う! 仮説だよ、それだけだ。
キス以上の関係には進められない」
「それは、ワタシが子供だから?」
「そういう事になる」
「ワタシは圭が好きで、圭もワタシが好きなのに、付き合えないって事だよね」
「(いや、だから仮説なのに……)まあ、そういう事になる。
世の中、単純に好きというだけでは結ばれない事もあるんだ」
「ふ~~ん、分かった。
ワタシが大人になるまでは、圭とは付き合えないって事ね。
じゃあさ、なんで小梢さんとも付き合えないの?」
「(しまった! これが目的だったか!)それは……、ん? もしかして、まだ小梢と連絡を取ってるのか?」
「そうだよ、圭の様子がおかしいから小梢さんに尋ねたんだけど」
「なにか言ってたか?」
「『圭君とは別れた。理由は話したくないけど、私が悪い』ってさ」
「そうか……」
「ねえ、小梢さんが何をしたの? 許せないくらい酷い事? 圭って優しいのに、どうして許してあげないの?」
正直にすべてを話すべきか? いや、陽菜には刺激が強すぎる。話すべきじゃない。
「僕たちの問題なんだ。これは、いくら陽菜にでも言えない」
「『言いたくない』じゃなくて、『言えない』んだ」
「そうだな……」
「小梢さんのことが嫌いになったわけじゃないんだよね?」
嫌いになれたら……、忘れられたら、どんなに楽になれるか……。
「ああ、今でも好きだよ」
「小梢さんも圭の事が好きなはずなのに、ヘンなの」
「ははは……」僕は、力なく笑うしかなかった。
「ワタシが高校卒業するまで、それまでに小梢さんと仲直りしてよね」
「ん?」
「だって、このままじゃゲームをクリアした事にならないもん」
「げ、ゲーム?」
「そうよ、言ったでしょ。小梢さんに勝って圭と付き合うって。
ワタシの方が可愛いって証明するのよ」
「だったら、ゲームオーバーかな……。
小梢とは元には戻らない」
自分で言いながら、胸がキリキと痛くなる。どんなに足掻いても小梢とは元の関係には戻れないだろう。
「圭……。
まあ、良いわ。高校卒業したらゲーム関係なくワタシが彼女になってあげるから、元気だしなよ」
「あはは、それは有難う。まあ、その時まだ僕の事を好きだったらな……」
今でさえ誰もが振り向く美少女なのに、四年後なんて、どんな美人に育っているか計り知れないものがある。
きっと、僕なんかより相応しい男の子と陽菜は出会うだろう。そんな気がした。
「じゃ~、お喋りはこのくらいで、ご飯食べよう~」
「そうだな」
本当に、陽菜は良い子だ。可愛いだけでなく頭の回転が速く、気も利く。
今日一日で、僕の胸に空いた穴を随分と埋めてくれた。
(陽菜……、ありがとう)
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