第33話 混浴

「あった、家族風呂、ここだね」


が……。


(う! 文字が……、エロい)


達筆で書かれた『家族風呂』の文字が、やけにエロく見えるのは僕に少しでも邪念があるからだ。


とにかく、落ち着かなければ。


脱衣所に入ると、陽菜は何の躊躇いもなく服を脱ぎ始めた。


「ちょっ! 陽菜、ここで脱ぐのか?」

「そうよ、だって、ここが脱衣所でしょ? どこで脱ぐつもり」


(陽菜のヤツ、本気だ。 本気で混浴するつもりだ!)


僕は、陽菜がまた僕をからかっているものだと思っていたが、どうやら本気で一緒にお風呂に入るつもりだ。


もう、逃げ出すわけにもいかない。


僕は覚悟を決めた。


「そうか、僕は先に入ってるぞ!」


服を猛ダッシュで脱ぎ、脱衣かごに無造作に放り込むと、僕はタオルで股間を隠して浴室へと逃げ込んだ。


そして、そのまま湯舟へダイブする。

バシャ~、と湯面がゆれ、お湯が湯舟からあふれ出した。




暫くすると、陽菜が入ってきた。


「もう~、圭ったら、脱いだ服を畳みなさいよ。

よけいな仕事が増えたじゃない」


「お、おう……、スマン」


僕は、入り口に背を向けて湯舟に入ったまま、答えた。


「圭……、ワタシも入って良い?」


「お、おう……」


「ハズカシイから、あまり見てほしくないけど」


(恥ずかしいなら混浴なんてするんじゃありませーーん!)



「ちゃんと、こっちを……見て」



ゴクリ


僕は喉を鳴らした。



「お、おう……」



恐る恐る、ふりむくと……、陽菜はバスタオルを身体に巻いていた。


ホッ、と胸をなでおろす。



(そ、そうだよな。さすがにタオルを巻いて入るだろ、テレビの温泉番組でも女子アナがやっている)


僕が安心したのもつかの間。


「あ、タオルが濡れちゃう」


そう言うと、陽菜は身体に巻いているタオルを解いた。


「(ちょっ!やめなさーーーーい!)陽菜! やっぱりダメだ! こういうの」


僕は、あわてて目を閉じ手で隠した。



「圭……、ちゃんと見てよ」


「だから、無理だって!」


「ふ~~、世話が焼けるな~」


ヤレヤレと言った感じでため息をつくと、陽菜は僕の前に跪いたのか、顔を覆っている僕の手を握ると、力まかせにどけようとする。



「もう、危ないから、抵抗しないで」


確かに、浴室れ暴れるのは危ない、僕は仕方なく手をどける。


「ちゃんと見て!」


陽菜の声が近くに聞こえる。おそらく顔が近くにあることが分かる。



  ゴクリ


またも僕の喉が鳴った。


もはや、これ以上は抗えない。僕は少しずつ目を開いた。



……。


……。



「?」



「どう? ワタシ 笑」



「陽菜……、これは……」


「あはは、圭の慌てぶりったら 笑」




陽菜は、セパレートタイプの水着を着ていた。


「いつの間に……」


僕はただ、あきれるばかりだった。



「ウフフ、さっきのスーパーで買っておいたの 笑

それにしても、予想以上の反応なんだもん。圭ったら、ウケる~ 笑」



僕は、どっと疲れが出てくるのを感じた。またしても陽菜にしてやられたことが悔しいが、反面、安堵したのも事実だ。



ブクブクと湯舟に沈み込む。



「田舎のスーパーで買ったにしては可愛いでしょ? この水着。

今度、プールか海でデートしよ」


「ああ……、そうだな……」


「誰が陽菜となんかデートしてやるもんか」と少し拗ねるのであった。


「ワタシも入っちゃおう~」


陽菜は水着を着たまま湯船に入ってきた。


「う~~~ん、気持ち良い~~


うい~~~、良い湯だ~~」



お前は、おっさんか?

と、思いつつ、なるべく陽菜の方は見ないようにする。いくら水着を着ているとはいえ、JCの素肌は眩しすぎる。


「見て見て~、圭、お肌がスベスベだよ~」


「そ、そうだな」


「なに~? さっきからソッポを向いて。

もしかして、怒った? 水着きてたから 笑」



「バカ! そんなことある訳ないだろ」


「そうだ、やっぱり背中を流してあげようか?」

「いや、結構です」


「ワタシ、たまにパパの背中を流しているから、上手だよ」


「あれ? そういえば」

「ん、なに?」

「陽菜のお父さんって、見かけないけど、何している人?」

「パパは単身赴任中なの、家に帰ってくるのは年に二回くらい」


「どこにいるの?」

「ん~~、たしか今、シンガポールかな」

「海外にいるのか、大変だな」

「もう慣れちゃったよ。ワタシもママも。母子家庭にさ」


そうか、と思ったが案外、陽菜は寂しいのかもしれない。

父親に甘える代わりに僕に甘える――というか、からかっている――というか、僕と接することを楽しんでいるのかもしれない。



「じゃあ、ワタシが先に身体を洗うよ」


「ああ、好きにしてくれ」


「水着を脱ぐから、見ないでね」



「(なんだかんだ、やっぱり恥ずかしいんじゃないか)

分かった、向こうを向いているよ」


僕は、洗い場に背を向けた。





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