第32話 JCの下着
「うわ~、けっこう大きなホテルなんだね~」
陽菜が建物を見上げて感嘆の声を漏らした。
だが、僕はそれどころではない。
こんな立派なホテルに泊まるのは初めてだ。ビクビクしながら入口へ向かうと、ドアの前にホテルの従業員と思しき男性が背筋を伸ばして立っている。
挨拶を交わして、フロントへと向かうが、JCを連れた大学生が不審がられないか、気が気でない。
オロオロしている僕を他所に、スタスタと陽菜が受付へと声をかける。
「予約している磯村ですけど」
「磯村様ですね。こちらにご記入ください」
宿泊者カードだろうか? 陽菜は手慣れた感じで記入する。
「お荷物は、ございますか?」
「いえ、電車が止まって、急遽泊まることにしたので荷物はありません。どこか着替えを買いたいのですが、ありますか?」
「でしたら、この先にスーパーがあります。衣料品のコーナーもございます。歩いて10分ほどですから、そこでお買い物できます」
「ありがとうございます」
「それから、お客様、ご夕飯ですがお部屋にお持ちしますか? 大広間でもいただけますが」
「部屋にお願いします」
テキパキと受け答えする陽菜を、僕はただ羨望の眼差しで見るしかなかった。
フロントでキーを受け取って、女中さんらしき女性の案内で部屋へと向かったが、僕は相変わらずオドオドしていた。
「すごいな、陽菜は慣れてるんだな、こういうの」
陽菜は、僕の言葉には耳も貸さず、女中さんの後に続く。
ふ~、と陽菜がため息をついたようだった。
「こちらでございます」
女中さんが案内してくれたのは、8畳ほどの和室だった。
簡単に部屋の備品や設備を説明すると、そのまま女中さんは帰っていく。
「(あれ? 僕の部屋は?)
あの……、陽菜、部屋って一つなの?」
ヤレヤレといった表情で陽菜は目を細める。
「当たり前じゃない。ビジネスホテルじゃないんだから、一人部屋なんてないわよ」
「えええーー!! ちょ、一つの部屋で一緒に寝るのか?」
「そうよ、何か問題ある?」
「いやいやいやいや、問題おおアリだろ」
またしてもヤレヤレといった表情で陽菜は更に目を細める。
「も~~、この期に及んで、うろたえないでよ。そんな事だから……」
と言いかけて、陽菜は口を濁した。
「暗くならないうちに買い物に行くよ!」
一旦、部屋を後にして、僕たちはフロントで教えてもらったスーパーへと向かった。
そこは、スーパーというより、小さなショッピングセンターだった。
「ねえ、圭」
「ん?」
「これ、どうかな?」
「そ、それは、JCには派手過ぎないか?」
田舎のスーパーだけあって、下着も特にコーナーを分けるでもなく、男性用の下着と一緒に売っていた。
そこでわざわざ、陽菜は下着を掲げて僕に感想を求めている。
最近、気づいたことがある。
陽菜は、わざと際どい事をして僕の反応を楽しんでいるのではないか?
「フフフ、圭ってホント、クソ真面目だよね。
これにしよ~」
陽菜は楽しそうに下着を買い物かごに入れた。
~・~・~
買い物を終え、僕たちはホテルへ戻ったのだが、また陽菜が挑発してくる。
「圭~、家族風呂が使えるんだって、一緒に入ろうよ」
「ブーー! そんなことできる訳ないだろ! 大浴場で良いよ」
「笑 そう言うと思った」
「言うだろ、普通!」
「でも、ママから圭の背中を流してあげなさいって言われてるんだよね」
「そうなのか?」
いやいや。そんな事が許される訳がない。ブルブルと僕は首を振る。
「また、そんな深刻な顔をする。一緒にお風呂入るだけなのに、何が問題なの?」
「なにがって、陽菜はまだ子供だし、僕たちは恋人同士じゃない。だから……」
「だから? お風呂に一緒に入っちゃいけないの?」
「そ、それは……」
「ワタシみたいな子供に、圭はお風呂で変な事をするの?」
「する訳ないだろ……」
「じゃあ、別に問題ないじゃない」
(くっ! 相変わらず屁理屈を)
おそらく、屁理屈を捏ねさせたら、地上最強のJCなのではないだろうか、陽菜は。
「わかったよ。でも、身体は自分で洗う。
陽菜も自分の身体は自分で洗え」
「やったー
じゃあ、さっそく行くよ~」
このまま陽菜のペースで過ごしていたら、夜、どうなるか分かったものではない。
どこかで線を引かないと、取り返しのつかない事にもなりかねない。
予防線を張らなければ……。
浴室へ向かいながら、僕はブツブツと独り言をつぶやいた。
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