第31話 ハプニング
六月。
僕は、以前から延び延びになっていた陽菜とデートの約束を果たした。
それで今、富士山の麓にある遊園地へと来ている訳だ。
絶叫系のマシンが多数存在する若者に人気のスポットでもある。
僕も若者なのだが……、ちょっと、いや、かなりノリが違う空間である。
「ねえ、圭。次はアレに乗ろう~」
陽菜ははしゃぎまくって、次から次へと絶叫系の乗り物を制覇していくが、僕は堪ったものではない。
なにしろ、こういう絶叫系のマシンに乗るのは、殆ど人生初なのだから。
「ひ、陽菜。少し休まないか?」
「え~、せっかくのフリーパスなんだし、勿体ないよ。
全部、二回ずつ乗るよ!」
JCの体力は底なしなのか?
僕は、そそり立つ絶叫マシンのレールを見上げて、ため息をついた。
「でも、晴れて良かった~ せっかくのデートなのに雨だったら台無しだもん」
昨日まで、関東を中心に豪雨が続いていて、今日は久しぶりに青空が広がったのだった。
内心、今日まで雨が降ってれば絶叫マシンに乗らなくて済んだのに、と思ったのは陽菜にはナイショだ。
僕は、宇宙空間にでも舞い込んだかのように平衡感覚を失い、フラフラになりながら陽菜の後をついて行く。
(まるで子犬のようにはしゃぐな……)
なんだかんだと言いながら、最近、ふさぎ込んでいた僕にとっては良い気分転換にはなっていた。
(陽菜は、もしかしたら気づいているのだろうか?)
ことさらテンションを上げているのは、あの子なりの気遣いなのかもしれないと思った。
JCに元気付けされるようじゃ、僕はまだまだ未熟だな。
「ほら~、シャキッと歩きなよ」
陽菜が手を伸ばす。
苦笑いしながら、小さな白い手を握り「もうヤケクソだ、どんどん行くぞ!」僕も空元気を発揮する。
~・~・~
夕方までヘトヘトになるまで遊んで疲れ切った僕たちに、追い打ちをかけるような事態が起きた。
遊園地の駅の掲示板に、中央本線が土砂崩れで断線しており復旧の目処が立っていないというのだ。
「とにかく、行けるところまで行って、後はタクシーでも使うか?」
「圭、こんな時、人って皆同じことを考えるんだよ」
「?? なにを言ってるの? 陽菜」
「だから、ここにいる人たちって殆どが東京方面から来てるわけ」
「そりゃ、そうだろ」
「東京で、電車が止まったりすると、皆、行けるとこまで行って、そこからタクシーに乗るのよ」
「そうなのか? (詳しいな……)」
「で、タクシー乗り場は大混雑、結局何時間も待たされるのよ」
これから、大月までいって、そこでタクシーを待ったとして、そこで夜明かしとなると……、僕は良いとしてJCの陽菜にそんな事はさせられない。
「分かった。ここからタクシーで帰ろう」
いくらかかるか分からないが、仕方ない。
が、既にタクシー乗り場には長蛇の列が出来ていた。
(どうすりゃ、良いんだ?)
途方に暮れる僕を他所に、陽菜は隣で誰かと電話している。
「陽菜?」
「うん、分かった。ありがとうママ。
ん? そうね、今日のはカリにしておく。 ん? ちょっと、まって」
「はい」
そういって、陽菜は僕にスマホを手渡した。
「誰?」
「ママ。早く出て」
僕はスマホを耳にあて、「もしもし」と声をかけた。
「あ、圭君。陽菜ちゃんから聞いたわ。ごめんなさいね面倒掛けちゃって」
「あ、いえ、自然現象だし、僕の方こそスミマセン。陽菜ちゃんを送り届けるのが遅くなりそうです」
「いいのよ、今日はもう泊まっていきなさい」
「え?」
「わたしの方で予約しておいたから、そこからバスで行けるわ。『すそのホテル』って結構老舗の旅館なの」
「ええーー!?」
「決済も済ませておいたから、あなたたちは行けば直ぐにチェックインできるわ」
「いや……、あの」
『ウフフ、初夜ね 笑』
こ、これは、大変な事になってしまった。
「あ、いや、初夜って……、佳那さん……」
「ウフフ、冗談よ。あんな小娘となんて圭君がイヤよね 笑」
(じ、自分の娘を『小娘』って、この母親は……?)
「とにかく、陽菜ちゃんのこと、よろしくお願いね」
「はあ、こちらこそ、色々と手配していただき、ありがとうございます」
電話を切って、陽菜にスマホを返す。
「じゃあ、行こうか~ホ・テ・ル」
陽菜が僕の腕に手を絡めてきた。
とんだハプニングだが、見知らぬ地で野宿するよりは数倍マシだ。
僕たちは、佳那が予約してくれたホテルへと向かった。
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