第30話 日記

小梢を送った後、部屋へ戻った僕は土門華子の日記をあらためて読みなおしてみた。





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xxxx年xx月xx日


今日、森岡君が一緒に勉強しないか?

と誘ってくれた。


一緒にと言っても、森岡君が私に教えてくれるので、

森岡君には負担でしかないはずだ。


どうして?


どうして森岡君は私なんかに優しくしてくれるだろう?


私は今まで、ブスだし、太っているし、運動できないし、勉強もできない。


神様まで私にイジワルしていると思っていた。


だけど、森岡君に会わせてくれた。


私は単純だ。


神様ありがとうと思ってしまった。


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僕に会えたことで神様に感謝するなんて……、少し優しくされただけで、僕の事を好きになるなんて……、土門華子のたった14年の人生は、何だったんだろう?


この日記を、暗記するまで読んだ小梢は、どんな気持ちで今日までの五年間を過ごしてきたのだろう?


小梢は、この重い荷物を背負って生きてきたんだ。

とても『土門さんの事なんて忘れて僕と付き合ってくれ』なんて言えない。



(土門さん……、これは小梢への復讐なの?

だとしたら、お願いします。


小梢を許してください)



無力だ、無力だ、無力だ……。

僕は、自分の無力さが悔しかった。


小梢の苦しみを何とかできないだろうか?

日記のページをめくった。




◆◆◆


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xxxx年xx月xx日


今日、私は最近では一番落ち込んでいる。


森岡君が、転校するのだ。

二年生になったら、森岡君はもういない。


森岡君は、私が勉強できるようになったから、

このまま続ければ学年一位も夢じゃないよ、と言ってくれた。


全部、森岡君のおかげだ。

なのに、私は彼に何もお返しできていない。


神様は、やっぱりイジワルだ。


私は単純だ。


神様が嫌いになった。


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xxxx年xx月xx日


二年生になった。


森岡君はもういない。


相変わらず私は虐められているけど、全然気にしない。


私には、目標があるからだ。


森岡君は、東京の大学に行くと言っていた。

きっと、森岡君なら東大にだって行けるだろう。


だから、無謀だと思うけど、私も東大を目指すことにした。


きっと、大学で森岡君に会える気がする。


森岡君に再会した時、せめて恥ずかしくないようにしたい。


私は単純だ。


今日からダイエットを始めた。


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xxxx年xx月xx日


一学期の期末試験二日目が終わった。


今までで一番手応えを感じる。

このままいけば、本当に東大も夢じゃない気がしてきた。


最終日、手を抜かないように、最後の追い込みをする。


ダイエットして、10キロも体重が減った。

大学で森岡君に会ったら、可愛くなったね、って言ってもらえるかな?


告白は、無理だよね。


始めは、友達から。


私は森岡君の事を『圭君』って呼びたいな。


圭君には、私の事『華子』って呼び捨てにして欲しい。



私は単純だ。


想像して、枕を抱きしめて身もだえした。


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xxxx年xx月xx日


一学期の期末試験が終わった。


最悪な事が起きた。


圭君に会いたい。


でも、もう無理だ。


圭君が好きでした。


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日記は、ここで終わっていた。



僕は、日記をテーブルの上に置いて、ベッドに横になって考えを巡らせる……。


小梢が土門華子に託されたのは、僕へ彼女の想いを伝えることだ。

だとすると、小梢は役割を果たしたことになる。


短い期間だったが、小梢の事がようやく分かってきた。

彼女は一本芯が通っていて、頑固な性格をしている。


おそらく、僕とになってくれと言ったのは、土門華子への遠慮だったのだろう。

そして、僕の告白を断ったのも土門華子の恋を奪う事を恐れての事だ。


だとしたら、やはり僕にできることは一つしかない。



  僕が小梢をあきらめれば良いだけだ。



小梢は僕と恋人になれないだけなのだから、違う人と恋をして、土門華子と関係ないところで普通に幸せに生きていけば良い。

もう、小梢は土門華子の願いを叶えてやったのだから、これ以上、彼女の死に責任を負う必要はない。



僕にできる事をする。それで、小梢は自分の人生を取り戻せる。

そもそも、小梢のような超絶美少女が、僕と恋人になるなんて出来過ぎた話だ。



「僕も振り出しに戻って、東京に出てきた目的を思い出すんだ」


小梢ほどでなくても、可愛い女の子と普通に恋をして、イチャイチャして、普通の若者の生活をして、大学の四年間を楽しく過ごす。



「うん、そうだ。きっぱりと小梢の事は忘れよう」


彼女は元々いなかった、ということにすれば良い。



どうと言う事はない。



どうと言う事はない。




でも……、


「小梢の匂いがする……」


ベッドの残り香に気持が揺らぎ、涙が出そうになるが自分に言い聞かせる。



「ウジウジと考えるのは……よそう」



強がっては見たものの……、


情けない僕は、涙を堪え切れなかった。





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