第28話 小梢の告白
「小梢……、これって?」
「土門華子さんの遺書よ」
「どうして彼女が君あてに遺書を書いたの? 彼女は本当に死んだの?」
僕の問いかけに、小梢はブルブルと唇を震わせた。
何度か深呼吸をすると、一瞬、口を真一文字にした後に衝撃的な事を口にした。
「彼女は死んだわ。私が殺したの」
「?? ごめん、何を言っているのか分からない。
殺した相手に遺書なんて書く? 内容からして自殺じゃないの?
ねえ、何があったの?」
僕は、矢継ぎ早に質問を投げ返ると思わず中腰になり、小梢の肩を掴んだ。
小梢の艶やか黒髪が揺れた。
「土門さんだけじゃない」
「?」
「わたし、もう一人殺してるの」
僕は混乱した。小梢の言っていることが全く理解できない。小梢から手を離すと、腰が抜けたように尻もちをついて、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
小梢は相変わらず正座したままだった。
そして、ポツリ、ポツリと昔なにがあったのかを話し始めた。
とても辛そうに……、美しい顔は苦しそうに歪んでいた。
◇◇◇
「わたしは、圭君と同じ中学にいたの。
圭君は一年で転校したし、わたしとはクラスも違ったから、わたしのことは知らなかったよね。
中学二年生になってクラス替えがあり、わたしは土門さんと同じクラスになったの。
最初、わたしは土門さんなんて何とも思ってなかったわ。
当時のわたしは、自分で言うのも恥ずかしいけど可愛いし成績も良かったからクラスでも人気者だったの。
失礼な言い方だけど、彼女の容姿はとても悪くて、わたしだけでなく他の女子も誰も相手にしていなかった。
彼女をかまっていたのは苛めっ子の男子だけ。
随分と酷い虐めをされていたけど、土門さんは全く苛めっ子を相手にしていなかった。
それもそのはずで、土門さんは凄く成績が良かったの。
これはきっと圭君のおかげね。もちろん、彼女の努力もあったと思うけど。
だけど、それを良く思わない子もいたのよ。
それが、わたし。
ちょうどその頃、陸上クラブで小学生の時は良い記録を出せていたのだけど、記録が伸びなくなって、何か目標に向かって頑張っている土門さんが目障りだった。
何時しか、わたしも彼女を虐めるグループに入っていたの。
そして、あの事件が起きた。
一学期の期末テストの最終日。
土門さんを虐めていたグループの男子から、彼女を体育準備室まで呼び出して欲しいって言われたの。テストが終わった解放感で、土門さんを虐めるんだと思って、軽い気持ちだったわ。
二つ返事で、彼女に『先生から手伝いをお願いされているから手伝って』と呼び出したの。
……、……。
ごめんなさい。続けるね。
体育準備室の前に何時もの苛めっ子メンバーの男子がいて、その中に高校生くらいの男子も混じっていて、わたしも不審には思ったのだけど、あまり関わりたくないって、その時は思ったの。
そこで土門さんを引き渡して、わたしは帰ったのだけど……、
やっぱり気になって、引き返してみたの。
そこで、見た光景は……、
……、
……、
一生忘れられない。
男子が土門さんの手足を抑えて……、
……、
……、
高校生くらいの男子が、土門さんの上に覆いかぶさって……、
彼女が……、
……、
……、
『痛い! 痛い!』って……」
◇◇◇
小梢は、そこまで話すと、肩を震わせて泣き始めた。
「小梢! もういいよ、話さなくても」
僕は、小梢を抱きしめて、なんとか落ち着かせようとしたが、落ち着いていないのは僕も同様だった。
「離して! ちゃんと最後まで聞いて!」
小梢は、そういうと僕を押しのけ、大きく息を整えて、また話し始めた。
◇◇◇
「おぞましい光景だったわ。
泣き叫ぶ土門さんから高校生が離れたと思ったら、次に苛めっ子のリーダー格の男子が覆いかぶさって、高校生と同じことを始めたの。
わたしは怖くなって、その場から逃げ出したの。
とんでもないことに加担したって、後悔するとともに、土門さんに凄く申し訳ない気持ちになったわ。
でも、本当に後悔したのは次の日になってからだった。
次の日、土門さんは登校して来なかった。
お昼前になると、先生たちがバタバタと慌てふためいているのが、生徒たちにも分かるようになって……、
そのうちマスコミが集まりだして、
警察も来てたわ。
他の生徒たちは『なにがあったんだ?』って騒いでいたけど、わたしには想像がついた。
昨日、男子たちが土門さんにしたことは犯罪だもの、そのせいで警察が来てるんだって思った。
けど、違ったの。
急遽、全校一斉休校になって、全員に帰宅するように指示が出て、校門を出ると……、
マスコミが生徒を捕まえて、いろいろ聞いて回ってたの。
わたしも聞かれたわ。
それで、何があったのか聞くと……、
『二年生の女の子が自殺した。虐めが原因らしい』って教えてくれたの。
……、
……、
……、
直ぐに土門さんの事だってわかったわ。
だって、わたしが原因を作ったんだもの。
……、
……、
……」
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