第20話 危機的な状況
GW最終日。
僕はマンションまで陽菜を迎えに行った。
相手は未成年だ。キスまで交わしたとはいえ、やはり保護者に連れ出すことを報告して出かけるべきだと思ったからだ。
それに、少し佳那とも会いたいという下心も働いた。
「なんで家で待ち合わせなのよ~」
「普通、デートって駅とか喫茶店とかでワクワクしながら待ち合わせるものじゃないの?」
陽菜は不満たらたらの様子だ。
「陽菜ちゃん、圭君を困らせないのよ。
アナタみたいな【子供】の相手をしてくれているんだから」
キッと陽菜が佳那を睨む。
どうもこの母娘の仲がどうなっているのか心配になる。
「もう~、良いからさったと行こう、圭」
陽菜は、僕の手を引いて外に出ようとする。
「あ、圭君」
それを佳那が追いかけ、僕の耳元で囁いた。
「今度は、私の相手をしてね。後でメッセージ送るから」
今にも頬にキスをしかねないほどの距離だった。
「もう、ママ! 行くんだから、圭から離れて!」
グイグイと手を引っ張り、佳那から引き離しにかかる陽菜。
「いってらっしゃい~~」
佳那はニコニコしながら僕たちを見送った。
玄関を出ると、陽菜は怒り心頭に「圭ったら、ママにデレデレしすぎ!」と言い放った。
実際、僕は少し佳那に好意を抱いている。ずっと年上だけど、もし奥さんにするなら佳那は理想の女性だと思った。
エレベーターに乗り、改めて陽菜を見ると、まぶしいくらいに可愛い。
ショートパンツから伸びる白く細い脚。
いつもはおさげにしているが、今日は黒髪にストレートロングが映える。
間違いなく、陽菜もS級美少女だ。
オープンキャンパスは、本来は受験を控えた高校生を対象に行われる。
僕が通う長谷田大学も、その日はたくさんの親子連れが訪れていた。
先ずは受付を済ませ、自分が興味ある学部を見学させてもらう。主にゼミや研究室を訪問し、そこで在学生や教授の話を聞くと言った流れだ。
陽菜に理系と文系、どちらに興味があるか尋ねたのだが、僕が所属する経済学部を見たいと言うので、経済学部の受付を探す。
ハッキリ言って、経済学部を見学しても何も面白いものはない。
僕としては理系の学部を見学したかったのだが……。
「あ、あった、経済学部。陽菜、こっちだよ」
一般教養の講義に使用されている号館の入り口に、学部ごとの受付があり、そこに経済学部の受付もあった。
予想通り、人気が薄く人もあまり並んでなかった。が……、
僕はそこで固まってしまう。
(小梢?)
なんと、受付の机に小梢が座っている。
しかも、にこやかに応対をしているではないか。人見知りである小梢が……、意外だった。
「あれ? あの人、圭のカノジョじゃない?」
(しまった! 早くも気づかれてしまった)
陽菜が途端に不機嫌な顔になる。目を細めて『アヤシイ~』と疑いの目を僕に見せた。
「なんでカノジョがいるとこにワタシを連れてくるのよ?」
「あ、いや、知らなかったんだよ、ホント」
陽菜は、僕の弁明に耳も傾けず、僕の手を握ると受付に向かってツカツカと歩き始めた。
「ちょ、陽菜?」
「こんにちは。受付済ませたいんですけど?」小梢に声をかける。
思いもよらない来訪者に、小梢の表情が曇る。
「こちらにお名前を記入してください」小梢は訪問者用のリストを差し出した。
陽菜はリストを受け取ると名前を記入しながら、聞えよがしに僕に声をかけた。
「ねえ、圭。ここは何を書けば良いの?」
「あ、それは……」小梢が説明しようとするのを、陽菜が遮る。
「アナタに聞いてない」
(うおおーー、なぜ好戦的なんだ、この子は?)
「クスっ、もしかしてお嬢ちゃん、わたしのことが嫌いなのかしら」
小梢も負けていない。先日のデートの時もそうだが、僕の抱く小梢像と違った一面を見せてくれた。
「子供扱いしないでよ、気分悪い」
「圭君、これは、どういう状況なの?」
小梢は、陽菜を相手にせずに僕を見据える、が、別に怒っている風ではない。
確か、以前自分の事をヤキモチ妬きだと言っていたが、あれも嘘なのだろうか?
また疑問符が湧いて出てくるが、とりあえず小梢に状況を説明する。
「あ、この子は僕の教え子なんだよ。大学受験はまだ先だけど、大学がどんなものか良い機会だから見学させようと思って」
ふ~~ん、と言った表情の小梢。
「お似合いじゃない」
「?」
小梢の意図するところは、次の発言で明らかになる。
「やさしいお兄ちゃんと、生意気な妹みたいで 笑」
僕は意外だった。小梢がこんなにも好戦的な一面を持ち合わせていたことに。
いや、好戦的というより少し意地悪な一面でもある。
だが、好戦的という点において陽菜が負けるわけがない。
「クスっ、余裕ぶって。な~んにも知らないで 笑」
ここで僕は、自分がいかに危機的な状況にいるのか気づく。もし、陽菜がキスの事を喋れば、小梢との『嘘の恋人関係』さえも破綻しかねない。
わきの下に汗がにじんだ……。
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