第19話 小梢の真意
次の土曜日。
僕は、陽菜の家庭教師をしていた。
先週のデート、小梢は僕の告白を断った。
断られる少し前まで、僕はイケると思っていたが、あの悲しい目を見た瞬間に失敗すると直感した。
あの時のシーンが、今でもフラッシュバックのように蘇る。
~・~・~
「ごめんなさい。わたしから無理に付き合わせているのに、こんなこと言うなんて勝手だと分かっているの。でも……」
小梢は、僕から目をそらすと、うつむいてポツリポツリと話し始めた。
「本当にごめんなさい。自分でもどうして良いか分からないの」
なんと反応して良いか、僕には分からなかった。
小梢は、顔を上げると、また大きな瞳で僕を見据える。
が……、その瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「??」
またも不可解な状況に、僕の思考は停止する。
「わたしも圭君の事が、ずっとだった。でも、少し考えさせて欲しいの。
だから、もう少し、このままの関係でいさせて欲しい……」
僕には、これ以上何も言えない。現状維持なら御の字のような気がした。
「うん、僕も、このままでも、小梢が傍にいてくれるなら、このままでも……良いよ」
「ありがとう圭君」
小梢は、そう言うと僕に抱きついてきた。
好きなのに付き合えない……。モヤモヤした気分だけが残った。
~・~・~
「圭?」
「圭」
「圭!」
「ん? ああ、どうした? 陽菜」
「どうしたじゃないわよ、ちゃんと集中してよ!
ワタシ、今日は機嫌わるいんだから、これ以上、怒らせないで!」
今日も、いつものように勉強前にキスをせがまれたのだが、小梢との事もあり、とてもその気になれず断っていた。
だから、陽菜はすこぶる機嫌悪いのだ。
「ねえ、カノジョとデートで何かあったの?」
「『なにか』って?」
「フラれたとか 笑」
「(くっ! 相変わらず鋭い!)
な、何を言ってるんだ! そんな事ある訳ないだろ」
「ふ~~ん」
陽菜は目を細めて、『アヤシイ』と言った表情になる。
「まあ、邪魔者がいなくなれば、わたしが圭をいただいちゃうからラッキーなんだけどね」
無駄話をしてしまったが、今は陽菜の勉強に集中しなければならない。なんとか機嫌を取って机に向かわせないと。
と、考えて、ある事を思い出した。
「そうだ、陽菜。明日だけど空いてるか?」
「え? なに? なに?」
明日はGW最終日だ。そこで陽菜とデートしようと思い立った。
「もしかして、デートしてくれるの?」
「ああ、約束したからな」
だが、小梢とのデートで散財した僕に軍資金は残されていない。
費用が掛からず、そして陽菜を連れ歩いても違和感を持たれない場所がある事を、僕は思い出したのだ。
「嬉しい~」
陽菜は立ち上がると抱きついてきた。少女の青い匂いが鼻をつく。
「お、落ちつけ、陽菜」
「だって、嬉しいんだもの」
陽菜は、僕の胸に顔をこすりつけて喜んだ。
「で、何処に連れて行ってくれるの?」
「うん、僕の通う大学、長谷田だ」
「ええ~
なんでデートの行き先が大学なのよ?」
陽菜は明らかに不満の表情を見せる。
「いま、オープンキャンパスをやってるんだ。陽菜の大学受験はまだ先だけど、大学がどんなところか見ておくのは悪くないと思うよ」
「え~~、ワタシ、もっとデートらしいことしたいよ、例えばラブホとか」
「ぶーー! な、何を言ってるんだ! そんな事できる訳ないだろ!」
「あはは、冗談だよ。圭って単純なんだから 笑」
むむー、JCにからかわれる僕って、何なのだろう? これじゃ小梢に『坊や』扱いされるわけだ。
「別に嫌なら無理していかなくても良いけどな」
「ん~~、不満がないかと言えば嘘になるけど、せっかく圭が誘ってくれたんだし、行ってあげる」
と、なぜか上から目線の陽菜。
「よし、そうと決まったら勉強に集中しよう」
「あのね、集中してなかったのは、圭じゃなかったの?」
そうだ、小梢の事を考えて勉強に集中してなかったのは僕だ。
「そうだったね、ゴメン」
「ねえ、カノジョと何があったの?」
「陽菜には関係のない事だ」
まさか、フラれたなんて言える訳がない。ここは、なんとしてもはぐらかす必要がある。
「ワタシの為にも二人には仲良くして欲しいところだけど、ま、圭がワタシの魅力に負けたのなら、それは歓迎だけどね~」
「なんだよ、良く分からないな。ちゃんと仲良くしてるさ 笑」
そう、別に仲が悪いとも言えず、それがまた不思議な状態でもある。
小梢の真意が、僕には全く分からなかった。
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