第21話 どうして好きなの?

「ほら、陽菜。お姉さんの邪魔をしちゃダメだよ。見学、見学」


僕は一刻も早く、この場を離れたかった。

陽菜の手を引いて連れ出そうとしている僕に、小梢が追撃する。


「あ、圭君。お邪魔して悪いんだけど、わたし午前中で受付係は終了なの」


「う、うん」


何か悪い予感がする。



「メッセージを送るから、わたしも一緒にまぜて」


有無も言わさない言い方だった。

すぐさま陽菜が反応する。


「は~? 圭はワタシとデートしてるのよ、なんでアナタが混ざるのよ?」


「だって、わたしは圭君のカノジョだもの。いくら【子供】でも、女の子と二人きりなんて看過できないでしょ?」


またも子供扱いされて、陽菜は地団駄踏んで悔しがった。


「ねえ、圭。 ワタシ、この人キラ~イ」

「まあ、まあ、落ち着いて陽菜。後ろに人も並んでるし邪魔になるだろ」


僕は陽菜が余計な事を言わないうちに連れ出したかった。

陽菜の肩を抱き後ろから押すように、この場を離れる。


「それじゃ、後で。小梢」

それだけ言うと、逃げ出すように受付を後にした。ブツブツと文句を言う陽菜を連れて。



それにしても、小梢のことがますます分からなくなった。


僕の事を好きだと言ったのに、恋人になるのは待ってくれと言ったり。

人見知りだと言っていたのに受付でにこやかに対応したり。

中学生の女の子を相手に好戦的な態度をとったり――ヤキモチを妬いたり――。


強引にまぜてくれと言い出したり。



そもそも……、出会いからして不自然だった。



(何なのだろう? やはり小梢は嘘をついてる)





「もう~、なんなのよ。ワタシ帰る」


僕がグルグルと考えを巡らせているのも構わずに、陽菜は不満気に口を尖らす。そんな彼女を、僕はなだめるために、またもその場しのぎの事を言ってしまった。


「今度また埋め合わせするから、今日はデートと言いながら陽菜の勉強へのモチベーションを高めるのが目的だから」


我ながら狡い言い方だと思う。しかし、他に上手い回避方法が思い浮かばなかった。


「ホントに? 今度、誤魔化したら許さないからね」


「う、うん。約束するよ……、必ず埋め合わせする。

……それと陽菜」


「なに?」


「腕を組むのはやめてくれないか」


「なんで?」


陽菜は先ほどから僕の腕に手を絡めて歩いている。これではまるで恋人同士だ。

しかも、どう見ても子供でしかない陽菜が、こうして腕を絡めているのは非常にマズイ。


「その……、大人の事情というものがあるんだ」


「オトナって、圭だって子供じゃない」


「日本の法律では成人だ。選挙権もある(お酒は飲めないけど)」



「それで、どんな事情があるの?」


「成人している男がだな、JCと腕を組んでると、淫行しているのかと思われるだろ」


「してるじゃない、キスを」



「ば、ばか! あれは、違うだろ」



「何が違うの? キスしたじゃない」



「(あわわ、こんなところで、キスしたとかしないとか言われるのはマズイ)

あ、あれはだな、授業の一環だ。君がほら、『恋愛って何なの?』って聞くから」


「ふ~ん、そうなんだ……、そんなつもりでキスしたんだ」


マズイ、イヤな予感がする。




「じゃあさ、学校の先生が生徒に『授業だ』って言ってキスしても良いの?」



(くっ! 相変わらず屁理屈を!)


ダメだ、陽菜は『ああ言えば、こう言う』タイプのめんどくさい相手だった。

何とか打開策を見出さないと……。



「そういう陽菜は、どうしてキスしたんだ?」



「言ったじゃない。 圭が好きになったって」


「それは……、聞いたけど。なんで好きになったんだ?」


陽菜が立ち止まり、ヤレヤレと言った表情で目を細める。


「じゃあさ、圭は何で、あのカノジョが好きなの?」



「うっ 

な、何でって……」


そうだ、どうして僕は小梢を好きになったのだろう?

僕も立ち止まり、「う~~ん、う~~ん」と考えてみる。



「そうだな、気が付いたら好きになっていた……のかな」


そうだ、僕はいつの間にか小梢のことが好きになっていた。その理由なんて言葉では説明できない。



誰かが言った……。


『恋はするものでなく落ちるものだ』、と。



「陽菜、君はそんな事だから、【子供】なんだよ。

『恋はするものでなく落ちるものだ』、よ。

気が付いたら、その人のことが好きになっていた。それが恋のハジマリなんだよ

(これは、陽菜もぐうの音も出ないだろう。最適解だ!)」



「そうだよ、私も、気が付いたら圭のことが好きになってたの」



「……」



どうやら、墓穴を掘ってしまったようだ……。





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