第13話 JCの母親の誘い
次の日。
僕は放課後、岸本に『相談がある』と持ち掛け駅前のマックで待ち合わせ、今、二人してカウンター席に座り、ポテトを頬張っている所だ。
「岸本さん、すみません、お時間を取らせてしまって」
「いや、良いよ。僕で役に立てるなら、なんでも相談してよ」
「じつは……、今度カノジョとデートするんですが、何処に行けばよいか分からなくて……、岸本さんなら、その辺詳しいかなと思って」
「カノジョって、あの凄く可愛い子だよね?」
「あ……はは、そうですね(……嘘のカノジョだけど)」
「学校でも凄い噂になってるよ、不釣り合いなカップルだって。あ、ゴメン、本人を前に 笑」
「いえ、良いんです。本当の事だって、僕が一番良く分かってます」
「岡田なんて、地団駄ふんで悔しがってたよ『何で俺にカノジョいないのに森岡に居るんだー』ってね 笑」
「あはは……」
僕には笑う事しかできない。
「あ、デート場所だったね。そうだな……」
岸本は、少し考えを巡らせているようだった。
岸本の提案したプランは、次のようなものだった。
・鉄板の映画鑑賞:これはデート初心者にお勧めだ。
・水族館、動物園、植物園等の施設系:特に女の子は水族館が好きだ。
・美味しいものを食べに行く:スイーツ好きな女の子には受けが良い。
検討した結果、僕は水族館に行くことに決めた。
いよいよ、人生初のデートだ……。
~・~・~
行き先が決まったことで、さっそく、小梢に水族館へ行くことを告げた。
場所は江の島水族館。
海の近くというのも山陰の海沿いで育った僕にとってもポイントが高かった。
それから、毎日が楽しくて仕方なかった。
小梢も楽しみにしているみたいだったし、何より僕には重大なミッションが予定されていた。
小梢に、『正式にカノジョになってください』と申し込むつもりだ。
そして、土曜日。
その日は家庭教師の授業が入っていた。生徒は陽菜だ。
この授業が終わったら、明日の最終チェックをする。楽しみで仕方なかった。
「あら~先生、いらっしゃい。お待ちしてました」
今日も玄関で陽菜の母、
「あ、どうも、お母さん。こんにちは」
僕は丁寧に挨拶をした。が……
この間会った時より、明らかに身だしなみが違う。身体の線を強調した服に、香水の匂いもきつめだ。
どこか出かけるのだろうか? と思った。
リビングに通されると、陽菜もソファーに座って待っていてくれた。
前回会った時よりもフレンドリーな態度なのは、気のせいだろうか。
「こんにちは。先生、行こう、部屋へ」
陽菜は、いきなり僕の手を掴むと部屋に連れて行こうとした。
どうやら勉強する気満々で、僕は嬉しかった。
ところが……。
「ちょっと陽菜ちゃん、先に行ってて。ママ、先生とお話があるから。それに、まだ開始時刻じゃないでしょ?」
「分かった。あまり圭を引き留めないでよ」
陽菜の母親を見る目が冷たい。
な……なんなのだ?
この空気は……。
まるで母娘の間に火花が散っているような雰囲気だ。
そう言えば、陽菜は母親の事を良く思っていないみたいだった。
やはり、仲が悪いのだろうか?
「まあ、あの子ったら、先生の事を呼び捨てにして!」
「あ、いや、良いんです。友達に接するみたいな方が勉強しやすいって言ってるので」
あはは……、と笑うが、内心ヒヤヒヤした。
まさか、僕が陽菜とキスを交わしているなんて、微塵も考えていないだろう。
「じゃあ、私も『圭君』て呼ぼうかしら」
「あはは、どうぞ。僕も『先生』と呼ばれると緊張しちゃうので、その方が気が楽です。
あ、それで、お話って何でしょう? お母さん」
僕は、さっさと用件を済ませて、勉強を始めたかった。
ところが、佳那は眉をひそめて、僕を睨みつけた。
(うわっ、これは、もしや陽菜とキスしたことがバレているのか?)
「嫌だわ……、『お母さん』だなんて。圭君もわたしの事を『佳那』って呼んで」
「あ、すみません。では、佳那さん。お話って何でしょう?」
「ウフフ、名前で呼ばれたのなんて、いつ以来でしょう?
いつも、『磯村の奥さん』や『陽菜ちゃんのママ』とか、私にも名前があるのに……」
ふー、と佳那はため息をついた。
「え……と」僕は、何と言って良いのか困ってしまう。
「あら、ごめんなさい。私ったら愚痴を……、恥ずかしいわ。
話というのは、圭君って一人暮らしでしょ?」
「ええ……」
「良かったら、今度、家でお食事をご一緒しません?
私、圭君のために腕によりをかけて料理を作るわ」
上京してから、家庭料理というものを食べていない。僕としても願ったりなのだが……。
「そうだ、圭君。直接連絡取りたいから、メッセージアプリの友達登録をしてくれる?」
そう言うと佳那は、僕の横に座るとスマホを取り出した。
(う、近い)
佳那の甘い香りが鼻をくすぐる。それに、全体的にふくよかな身体は大人の色気を漂わせていた。
「圭君、このQRコードを読み込んで」
と言って、更に身体を密着させてきた。
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