第12話 初めてデートに誘う
月曜日。
僕は、食堂の一角で小梢を待っていた。
僕たちは、嘘の恋人関係になる約束を交わした日から、ここで待ち合わせをして講義に出るようにしている。
磯村家のレビューのおかげもあり、『カテマッチ』からのオファーも増えた。その対応のために、僕は家庭教師のスケジュール作りをしていた。
「圭君、おはよう~」
暫くすると、小梢がやってきた。
「あ、おはよう」僕も挨拶を返す。
「どうだった? 家庭教師は」
「うん、生徒の女の子が、ちょっと生意気な子で大人しく勉強させるのに手間取ったけど、最終的には頑張って勉強してくれることになった」
さすがにJCとキスしたなんて言えない……。
「変な事にはならなかった?」
小梢が心配そうにのぞき込むが、相変わらず、上目遣いに見つめられるとドキドキしてしまう。
やはり今日も可愛い。
「へ? いや、その、変な事って? 何の事かな~」
まるで、あの現場を見ていたんじゃないかと思うくらい、僕のやましい心を見透かす。
これが女のカンというものなのか?
ジー、という音がするくらい僕を見つめる小梢に、思わず目をそらしてしまう。
「圭君って、女の子に優しいから少し心配になるの」
「僕が優しい?」
「うん、だって初めてわたしに会った時も、わたしのお願い聞いてくれたじゃない」
確かに、あの時、僕は戸惑いながらも小梢の『お願い』に応えた。
でも、それって優しさなのだろうか? 僕には分からない。
「圭君、わたし達って『嘘の恋人』だけど、だからと言って、わたしが悲しむような事をしないでね。
前にも言ったけど、わたしってヤキモチ妬きだから」
そう言うと、小梢は腕を絡めてきた。
最近、小梢のボディタッチが多くなった気がするが、悪い気はしない。
それに、どうして女の子って、こんなにも良い匂いがするのだろう?
この仕草、ルックス、何をとっても小梢はS級に可愛い。
小梢を好きになるなという方が無理がある。
それにしても、最近の小梢の態度は何なのだろうか?
最初に会った時と雰囲気が違う。何か違和感があるし、どこか無理をしているようでもある。
でも、少しでも僕の事が好きなら……、嘘の関係でなく本当の恋人になって欲しい。
そんな欲求が湧いてくるが、「あ~~、でも、フラれたらな~」と臆してしまう。
「あの……、圭君、どうかした?」
「え、な、なにが?」
「何か考え事してたみたいだから……、
あの……、今言ったこと、やっぱり気にしないで。迷惑だよね。
嘘の関係なのに……」
そう言うと、小梢はうつむいた。
彼女がうつむくと長いまつげが余計に目立って、更に可愛くなるのだ。
くよくよと考えても仕方ない、僕も少しは成長したんだ。
行動しなきゃ。
「あのさ小梢、今度の日曜日なんだけど、もし予定がなければなんだけど……」
うつむいていた小梢が顔を上げ、僕を見つめる。
深く黒い瞳に、思わず声が詰まりそうになるが、僕は勇気を振り絞った。
「僕と、どこか出かけない?」
小梢は瞳を大きく見開いて僕を見ている。
これは、やはり無理があったか?
少し不安になる……。
「それって、デート……に誘ってるの?」
「あはは、そ、その、嘘の恋人と言えど、デートくらいはするのかな……なんて、思ったりしてー」
僕の心臓は爆発しそうなくらい早鐘をうち、今にも眩暈で倒れそうだ。
恐る恐る小梢の反応を見ると……、またしても、うつむいている。
(あわわ……、やっぱり無理か)
そうなのだ、僕は所詮、嘘のカレシなのだ。僕とデートなんてしてくれるはずがない。
僕は断られることを覚悟した。ところが……
小梢は不意に顔を上げ、ニコリと微笑んだ。
「ありがとう、嬉しい。デートに誘ってくれて……」
(あれ?)
小梢は何故か目に涙を溜めて笑っているのだけど、悲しげな微笑みだった。
無理しているのではないだろうか? 僕は不安になる。
「あの……、小梢……、無理しなくて良いからね」
まただ、こうやって直ぐに弱気になるのは僕の悪い癖だ。
そう自覚しているけど、いざという時に悪い癖が出てしまう。
「ううん、無理してなんかないよ。ただ……、嬉しくて」
そう言って、小梢はゴシゴシと涙を拭いた。
「初めて男の子にデートに誘われたから、感極まって……」
小梢はゴシゴシと涙をぬぐうのだが、ちょっと泣き程度で済まないくらい涙があふれている。
(あわわ、、、この状況は一体、何なのだ?)
予想外の展開に、僕までパニックになる。
『ねえ、ねえ、あそこ。女の子を泣かせてない?』
『え、どこ? あ、ホント』
『サイテー、なに? あの不釣り合いなカップル』
『クズだわ~、クズ!』
僕がパニックに陥っていると、少し離れたところから聞こえよがしに女子学生の会話が聞こえてきた。
不釣り合いだ、クズだと散々言われているようだが、僕にも良く分からない。小梢の涙の理由が。
弁明したいところだが、先ずは目の前で発生している異常事態を収拾させなければならない。
「あ……の、小梢、だ、大丈夫?」
「ごめんなさい、変だよね。泣いたりして 笑」
確かに、小梢の反応は不可思議だ。
嬉しさの余りと言っても不自然さを感じた。
何なのだろう?
「うん、もう大丈夫! 日曜日、楽しみにしてる。プランは任せたね」
小梢は涙をぬぐうと、口元をキリっとさせ元気よく返事をしてくれた。
こうして……、
僕の人生初のデートの約束を取り付けることができた。
僕が目指すイチャラブなキャンパスライフへ、大きな一歩を踏み出せた気がした。
それも、相手は誰もが振り向くS級美少女だ。これ以上ない展開ではないか。
日曜日、デートの最中に『正式に恋人になってください』と言おう。
今の僕ならできるはずだ!
自分を鼓舞したが、一つだけ引っかかることがあった。
先ほどの小梢の涙……。
それは以前から感じていた彼女への違和感と関連があるように思えた。
だけど、もう僕は気持ちにブレーキをかけない。
僕は、小梢が好きだ。
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