第11話 ファーストキス
「な……な、な、な、何を言ってるんだ? そんな事できるわけないじゃないか」
言うまでもなく、僕は童貞だがキスも未経験なのだ。
「なんで? 女の人の扱いに慣れてるんでしょ? キスくらいできるんじゃない」
「あ、あのね、陽菜ちゃんは中学生だろ、子供相手にそんな事はできない」
「子供、子供、て言うけど、先生と四つしか違わないよ。
それに、ワタシって発育良い方だよ」
「いや、いや、そういう問題じゃない。キスは好きな人とするもんだろ」
相手のペースに乗ってはいけない。そう思うが、かなり手強い。
「じゃあさ、ワタシが先生を好きになった、てことなら?」
「へ?」
「ワタシが先生の恋人になるってことは、その可愛いカノジョに勝つって事になるじゃない」
「そういうものなのか?」
「そうよ、それって凄い自信になる」
「いやいや、なにを言ってるのか分からない。何の自信?」
まったくJCの発想にはついていけないものがある。
僕は次の手をどう打つか、完全にお手上げだった。
「先生がカノジョと別れてワタシを選んだら、ワタシの方が可愛いって事になるでしょ? それが自信よ」
「そ、そんな、恋愛を勝負事にするもんじゃないよ」
「じゃあ、恋愛って何なの?」
「う!?」
たしかに、恋愛が何か……、今の僕には説明できない。
「そんな、一言では言い表せない……な」
「だったら、少しずつワタシに教えて」
陽菜は立ち上がり、僕の方を向くと目を閉じた。
あらためて僕の前に立った陽菜をみて、彼女がどれだけ可愛いかを実感する。
目を閉じると更にまつ毛の長さが際立つ。
少しあごを上に向け唇を差し出している様は、どんな美少女系ゲームのキャラも敵わない萌え感がある。
もはや、僕に自制する理性は残っていなかった。
やり方は、映画やドラマで見たことはある。
そうだ、キスと言っても唇を合わせるだけの行為だ。難しいことではないはずだ。
「分かった。キスしたら、ちゃんと勉強るんだよ」
コクリと目を閉じたまま陽菜は頷き、またあごを上に向ける。
彼女の細く白い喉から、少女の匂いが漂ってくる……。
僕は、そっと、少女の唇に合わせた……。
(ああ……、なんて柔らかいんだろう……)
菜美恵も小梢も、そして陽菜も……、女の人って……柔らかい。
チュッ!
ほんの一秒だろうか? 僕が唇を合わせたのは、ほんの一瞬だった。
僕が唇を離すと、陽菜は目をパチクリさせる。
「なんだか、今の違う~」
「なにがって、ちゃんと唇をつけたろ」
「ちょっとタッチしただけじゃない、タッチじゃなくて握手だよ、イメージとしては」
JCに指摘されるのは悔しいが、確かに映画やドラマではもっと長く唇を合わせている。
「よし、もう一回いくよ」
「はい」
また陽菜は目を閉じ上を向く。
僕は再度狙いを定めて、唇を合わせた。
1……2……3……4……5……
(これが、キス……)
5まで数えたが、それでも3秒ほどだろうか、でも、こうして僕は初めてキスを経験した。
JCと……。
唇が離れても、まだ陽菜惚けた表情をしていた。顔もほのかに赤い。
「陽菜ちゃん、大丈夫?」僕は少し心配になる。
陽菜の挑発に乗ってしまったとはいえ、相手は子供だ。やはりマズかったのではないか。
僕の心配を他所に、陽菜は黙って席に着くと机に向かってテキストを広げ始めた。
(あれ? 何か……間違ってた?)
今度は、そっちの不安がよぎる。
「ワタシ、初めてのキスだったの……」
(いや、僕も初めてなんだけど……)
「圭……責任とってね」
「(せ……責任 それに先生から『圭』、呼び捨てに格下げ?
な、何のことかな? 陽菜ちゃん」
「ワタシ、頑張って勉強する!」
(うんうん、それは良い事だ)
「だから、ワタシが志望校に合格したら、ワタシと付き合って」
「(ええーー!!)
あ、いや、意味が分からない……、どういうロジック?」
「だから、ワタシと付き合うの。もちろん圭にカノジョがいるのは分かってる」
陽菜は椅子をクルリと反転させ、僕の方を見据える。
「最初は二股でも良いよ。でも最終的にワタシを選んでもらえるように、ワタシ、可愛くなるから」
「いやいや、僕にそんな価値ないだろ、陽菜ちゃんは今でも十分可愛いいよ」
「だ・か・ら、その人よりも可愛くないといけないの!
圭がワタシと付き合うには……」
やはり、陽菜は何か根本を違っている。容姿だけを判断基準にしている。
「陽菜ちゃん……」
「ヒナ! 呼び捨てにして欲しい」
「呼び方に何か違いがあるの?」
「親密になれるじゃん、呼び捨ての方がさ。いずれカップルになるんだし」
「そういうものかな~
(イカン、イカン、何を納得しているんだ僕は)
コホン、では、陽菜。君は何か勘違いをしているよ。分かっていない」
「『僕は容姿だけで女の人を好きになるような男じゃない』って言いたいんでしょ。分かってるわよ」
「(くッ! またしても先手を取られた!)
わ、分かっているなら、なんで『可愛い』に拘るの?」
「分かってないな~圭は。女心をさ」
「(だ、だめだ……完全に形成逆転だ……、どう打開すれば良い?)
とにかく、受験は自分のためのものだろ、僕と付き合うとかじゃなくて、もっと自分のために頑張らなきゃ」
「そうよ、圭のカノジョになるのも自分のためじゃない、だからワタシ頑張るよ」
(だ、ダメだ……、これは『ああ言えばこう言う』タイプだ……。理屈を屁理屈で返す面倒なタイプだ)
ここは、折れるしかない。
「よし、微妙にズレてるけど僕たちの目標は同じだ。陽菜ち、いや陽菜の志望校合格だ。
目標に向かって頑張ろう」
「うん!」
とりあえず……、僕の家庭教師は始まった。
不安な船出だけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます