第10話 生意気なJC

先日、何気なく撮った写真が役に立つとは、僕は小梢に感謝の気持ちでいっぱいになった。

だが、せっかくのカードだ。有効利用しなければならない。



「そんな、他人に簡単に見せられるものじゃ~ないな~」

チラリと陽菜を見ると『なによ』と言った表情になっている。


「そうだな、陽菜ちゃんのカレシの写真と見せっこしようじゃないか」



「えー、なんで、ワタシが見せないといけないの?」


「当然じゃないか、ギブアンドテイクさ、僕だけ見せるのは不公平だろ。

ま・さ・か、中学三年生にもなって、ボーイフレンドの一人も居ないなんてことは、ないよな~」


これは、賭けだ。

僕の直感は『陽菜にカレシはいない』だ。これを餌に勉強をさせるつもりだった。




「な、なによ……、ワタシ、モテるんだからね」


(うん、うん、そうだと思う)



「だ、だから、一人に決められないだけなのよ、居ないんじゃなくて決められないだけ。候補はいっぱい居るんだから……。それに受験生だし……」



「まあ、所詮は子供だ、そんなところだろ ハッハ。

でも、特別に見せてやっても~良いぞ」


「ホントに?」陽菜が目を輝かせる。


「ただし! ちゃんと僕の授業を受ける事! 陽菜ちゃんが行きたい行きたくないは、関係ない。僕は君の成績を上げるために来たんだから」



「分かった……、ちゃんと勉強するから、見せて」



(フンっ、所詮は子供だ。 僕の勝ちだな)


僕は、小梢と撮った写真を見せた。




「う……そ……」




「どうよ?」僕は勝ち誇った。


ぜんぜん僕の手柄でも何でもない、単に小梢が生意気なJCを黙らせる程のオーラを持った超絶美少女なだけなのに。


「ワタシのこと騙してるでしょ」

まだ陽菜は信じられないと言った感じだ。



「騙すものか、恋人でないのに、こんなに顔を寄せ合って写真は撮らないだろ」



「うーーんーー」


「さ、観念して、勉強、勉強。

(チョロいもんだJCなんて、いくら生意気でも理詰めで抑え込めばシュンとするんだもんな)」


僕は今、かつてないくらい対人で優位に立っている。


(これは、家庭教師、僕に向いてるんじゃないか?)


僕は、大いに自身を持った。



「うーーんーー」


まだあきらめないとは、粘り強さだけはあるようだ。

確かに『諦めたらそこで試合終了』と安西先生も言っている。



「まだ何かあるのかな? 陽菜ちゃん」


「ぜっーーたいに、おかしい!」と言って、陽菜は机を両手で叩いた。



「へ? な、なにが?」


「だってさ、釣り合わないじゃん!

アイドルみたいに可愛い女の子と、先生みたいな凡人がさ、釣り合ってないよ!」



(くっ! イタイところを突いてくる! 釣り合わないのは僕が一番痛感してるさ)

しかし、今宵の斬鉄剣は一味違う。



「フッ……、これだから、【ガキ】は」あえてガキの部分を強調する。


「な、なんでワタシが【ガキ】なのよ!?」


「人を見た目だけで判断している、それが【ガキ】なんだよ」




「うッ」


憮然とした表情の陽菜だったが、まだ何か反論したそうだった。

だが、あまり問答を続けると何時ボロが出るとも限らない。

僕は早急に勉強を始めたかった。


「さ、陽菜ちゃん、塾の課題を見せて。君が分かっていない所が何処なのかを見つけないと」


そう言って陽菜に近づくのだが、今まで嗅いだことのない匂いに僕の身体は反応してしまう。


菜美恵とも小梢とも違う。

新緑の時期の深い緑が生い茂ったような匂いだ。



「どうかしたの?」

「い、いや、なんでもない、課題は出してくれたかな?」


息が詰まりそうで苦しかった。

それに、よく見るとおさげの間から見えるうなじは、細くて透き通るように白い。

しかも、随分と薄い部屋着を着ているのでブラの紐が透けて見えていて、妙なエロさを醸し出していた。



「ねえ……、先生。なにか緊張してない?」


「は、初めての教師としての仕事だからね、そりゃあ緊張するよ」

まさかJCの匂いにモヤモヤしているとはいえず、嘘をついて取り繕う。



「ふ~ん」


机に向かっていた陽菜が身体を捻って、目を細くして僕を見る。

これは何か疑いを向けている目だ。



「先生ってさ~、もしかして女の人が苦手……とか?」

いつのまにか、顔に余裕の表情が戻っている。



「(マズイ!)な、何を言ってるんだ、ちゃんと恋人も居るんだぞ。女の人の扱いなんて慣れたものさ」


「でもさ、ママにも緊張してたみたいだし、カノジョがいるのに女の人に慣れてないみたいなんだよね」



「(くッ、鋭い!)そ、それは、単に家庭教師の仕事に慣れてないだけだよ」


まだ陽菜は疑いの目をしている。



「じゃあさ、証拠を見せて」


「証拠?」




「うん。ワタシにキスして」





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