第4話 人妻との合コン
高橋が予約していたのは、ビルの外見からは想像できない程オシャレな居酒屋で、通されたのは個室だった。席は 10 人分あるが、かなり窮屈だ。
席に着き、待つこと 10 分くらいだろうか「あ~いたいた、高橋君~」という声とともに女性のグループが入ってきた。
女性も五人。どの女性も美人揃いだ。「東京の人妻はなんてレベルが高いんだ!」と僕は驚いた。
「あ、今村さん。本日は私どものサークルのコンパに参加いただき、ありがとうございます」
「うわ~、若い子ばかり~。ね、高橋君。この子たち全員、長谷田なの?」
「はい、私の可愛い後輩たちです」
「うわ~頭良さそうな子ばかりね」
今村と呼ばれた女性は僕を見ながら言った。確かに僕はガリ勉だが頭が良いかは分からない。
そうこうするうちに、5 人ずつお見合いする形で席に着き、全員で挨拶を交わした。
僕は、女性の年齢を上手く言い当てられない。それでも、彼女たちの年齢層は 30 代以上だとは容易に予想がついた。
皆綺麗に着飾っており、普段着の大学生とでは、どうにも場違いな組み合わせではある。
しばらくして、お酒が配られたが僕は未成年なので、と断ってジュースを飲むことにした。自分一人が子供みたいで情けない気分になる。
そして、会は進むのだが……、疲れる以外の何物でもない。
僕は、このコンパに参加したことを激しく後悔した。
とにかく、話についていけないのだ。都会の華やかな話題に全くついて行けない。
「ちょっと、おトイレに……」
一度、頭をリセットしたくなり、僕はトイレへと中座した。
トイレで溜まっていた小便を放出していると、高橋が入ってきた。
僕の隣に立ち、モゾモゾしているかと思ったら、ジョボジョボ~と馬の小便のような勢いの水音が鳴る。
「どうだい、森岡君。 気に入ったマダムはいたかね?」
「ええ……皆さん、お綺麗な方ばかりで、圧倒されてしまいました」
「ちょっと、刺激が強すぎたかな?」
「はあ……」
「君の前に座っていた、生田さんだけどね」
「はい……」
「彼女、こういう飲み会は初めてらしいんだ」
「僕と一緒ですね、僕も初めてだし」
「うむ、君は飲み込みが早いね」
「?」なんのことだか、僕には分からなかった。
「君に彼女のエスコートを頼みたい」
「ええーー、僕がですか!? いや、無理ですよ」
「まあまあ、やる前から『できません』なんて言うものじゃない」
「でも……」
「いいか、アドバイスをやろう。君は、彼女の話を漏らさず聞く。
彼女は『こういう場所は苦手だ』と必ず言う。
そして君も、同じように『こういう場所は苦手です』と同調するんだ。
女性と仲良くなる秘訣、それは同じ空気を作る……ことから始める事だ」
確かに、先ほど小梢とは問題なく会話できた。それこそ同じ空気がもたらす効果だったのではないか?
僕にも少しやれそうな気がしてきた。
「分かりました、やってみます」
席に戻り菜美恵を観察するが、確かにどこかつまらなそうだ。
僕は、思いきって声をかけてみた。
「あの、何か飲み物を頼みましょうか?」
これだけ言うのに心臓がドキドキする。
「ありがとう、それじゃあ……『ファジーネーブル』をオーダーしてくれる?」
僕は、直ぐに席に設置してある端末を操作してファジーネーブルを二つ注文した。
オーダーが届くと、菜美恵は意外そうな顔をした。
「あれ、森岡君は未成年だからお酒は飲まないんじゃなかったの?」
「はい、でも、生田さんだけ飲ませるのは悪いかな……なんて」
驚くほどスムーズに言葉が出る。
僕は席に着く前に、いかにして菜美恵に『この場が苦手だ』と言わせるか、シミュレーションしてきた。
そのシナリオに沿って行動して、用意したセリフを言っているに過ぎない。
だが、スムーズに入れたことで益々自信が湧いてきた。
「ウフフ、無理しちゃって、可愛いのね」
彼女は、僕を見つめながらカクテルを口に運ぶ。
僕は、ここで自分が書いたシナリオ通りに、カクテルを一気に飲み干した。
「これって、ジュースみたいですね、これなら僕も飲めます」
「ちょ、ちょっと、大丈夫? 初めてお酒を飲むんでしょ? 軽いと言ってもアルコールが入っているのよ」
「平気です、生田さんに楽しんでもらいたいんです。僕がシラフじゃ白けるでしょ」
菜美恵は少し驚いた表情を見せたが、直ぐに微笑みの表情に変わった。
「君って、良い子ね。実はわたし、こういう飲み会って初めてで、どう振る舞えば良いか戸惑っていたの」
「僕も同じです。今日、初めて先輩方と会って、こうやってコンパに連れてこられて戸惑ってました。でも……」
「ん?」
さすがに、このセリフを口にするのは躊躇してしまうが「シナリオ通りに言うんだ!」と自分に言い聞かせる。
「その……。生田さんみたいな綺麗な女性とお話できて……ドキドキしています」
「まあ、子供のくせに、口が上手ね」菜美恵はクスっと笑った。
「ねえ、森岡君……わたし、今日は長居できないのよ」
エスコートもなにも、帰ってしまわれては元も子もない。
このままでは高橋に顔向けできない、「ありゃ~」と申し訳ない気分になった。
「あと、一杯ずつ飲んだら、わたしと一緒に出ない?」
「え?」
「駅まで送って欲しいの。ほら、新宿って結構、物騒なのよ」
「はい、僕で良ければ、送らせてください」
「じゃあ、もう一杯、私のオーダーをお願いしても良い?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、マティーニを二つね」
僕は再び端末を操作した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます