第5話 人妻の誘惑

「どう? マティーニは」


「こ、これは、キツイです」

僕は、思わずむせってしまった。


「クス、やっぱり子供なんだから」

そう言いながらも、菜美恵の目がトロンとしてきている。彼女も酔いが回ってきているようだった。


それにしても、喉が焼けるように熱くなる。しかも、先ほど飲んだファジーネーブルも、今頃きき始めている。


「無理しなくても良いわよ、坊や」

そう言うと、菜美恵は僕のグラスを取り、残った液体を喉に流し込んだ。


「ウフフ、関節キスしちゃったね」

菜美恵の顔がかなり赤くなっている。年上の女性なのに、思わず僕は可愛いと思った。



「さ、出ましょうか」

菜美恵は立ち上がると、リーダー格の今村に声をかけた。


「今村さん、わたし主人がうるさいから、もう出なきゃなの。ごめんなさいね」


「まあ、生田さん。もう帰っちゃうの? 一人で大丈夫かしら?」


「大丈夫よ、森岡君に送ってもらうから」


「森岡君、生田さんを送って行ってくれ、君もそのまま帰った方が良いな。顔が赤いぞ、未成年のくせに無理して飲んだな」

高橋が声をかけた。


「はい、すみません、お先に失礼します。先輩方、また明日学校で」


僕は挨拶を済ませ、菜美恵と共に店を後にした。少し、足元がフラフラしている気がした。

エレベータに乗ると、菜美恵が身体を寄せてくる。童貞の僕にも分かる。凄い色気だ。それに香水の匂いが鼻をくすぐる。


「わたしも少し無理したかも、少し酔ってしまったわ」

そう言って、彼女は僕に身体を預けてきた。人妻の色気に僕はパニックになりそうだった。



ビルを出て表に出たのだが、そこでマズいことに気が付いた。

来るときは先輩たちの後ろを追いかけて来たのだが、帰り方が分からない。


「どうしたの? 森岡君、こっちよ」


菜美恵が歩き出したので、僕も慌ててついて行く。


「もしかして、森岡君、道が分からないのかな?」


「はあ、まだ上京してきたばかりで、良く分からなくて・・・・・・。送っていくと言っておきながら、面目ないです」


自分の不甲斐なさに消え入りたくなる思いで菜美恵の後に続く。

すると、菜美恵は少し歩くスピードを落としたかと思うと、僕の腕に手を絡めてきた。

思わず身体が硬直する。


「ねえ……、森岡君、もしかして女の人とこうして腕を組むのって、初めて?」


「は、はい、むちゃくちゃ緊張してます」


「ウフフ、でも、わたしみたいなオバサンで良いのかしら、初めての相手が」

意味深に菜美恵が僕を上目遣いで見つめるので、頭がクラクラした。



「あの、生田さん・・・・・・駅って、こんなに遠かった、でしたか?」

気が付くと、人気の少ない妖しげなネオンが煌く路地裏へと入り込んでいた。


「良いのよ、少し酔いを醒ませてから、帰りましょ」

そう言うと、菜美恵はピンク色のネオンの建物へ、僕を連れて入って行った。



「え? え? 生田さん、ここって、まさか」


「うろたえないの、坊や」


「で、でも・・・・・・」

ここがどういう所か、僕にでも分かる。ラブホテルだ。男と女がエッチする場所だ。


そこに今、僕は入ろうとしている。


菜美恵が入り口のパネルを操作すると、自動販売機のように鍵が出てきた。それを持つと、菜美恵は僕の手を引きエレベーターへと乗り込んだ。


「あ、あの・・・・・・、生田さん・・・・・・。その、僕、こういうの経験なくて」


「フフフ・・・・・・、やっぱり童貞なのね」

菜美恵の目が、ますます妖しく光る。



「勘違いしないでね。わたし、初めて会った男と直ぐに寝るような安い女じゃないの」


「は・・・・・・あ・・・・・・(だったら、なぜホテルに入るんだ?)」疑問がわく。


「酔いを醒ますだけよ。だから、あなたも変な気を起こさないでね」


「分かりました・・・・・・」

少し期待しただけに残念な気分だったが、彼女が言う通り、初めて会ったばかりで直ぐにというのも――僕にとって――都合の良すぎる話だ。



「あ、ここね」

エレベーターを降り、廊下を少し歩くとキーホルダーに刻印されたルームナンバーが点滅していた。どうやら、ここに入れという事らしい。


彼女が扉を開け、僕もそれに続く。

部屋の中には、薄暗い照明に照らされた大きなベッドがあった。


僕は、思わず部屋の中をキョロキョロと見渡す。部屋のほとんどを占領する大きなベッド、サイドボードには食器や冷蔵庫が備え付けられており、その上に32インチほどのテレビが置いてある。


初めて入る空間に、僕があっけにとらわれていると菜美恵はスルスルと服を脱ぎ始めた。


「え! え! 生田さん、何してるんですか?」


「シャワーを浴びるのよ。お店でお料理の匂いが着いちゃったし、それに酔いを醒ますには熱いシャワーが一番なのよ」

そう言って、菜美恵はシャワールームに消えていった。


菜美恵がシャワーを浴びる間、僕はベッドに腰かけて彼女が出てくるのを待った。

暫くすると、シャワールームのドアが開き、菜美恵は出てきたが、今度は僕にもシャワーを浴びろと言う。


「君もシャワーを浴びてきなさい。サッパリするわよ。さあ」


菜美恵に促され、僕もシャワールームへ入り汗を流した。

シャワールームを出ると、照明が暗くしてある。


「浴室の電気を消して、こっちへいらっしゃい」

菜美恵はベッドの中にいた。



「女のカラダの事……、教えてあげる」


僕がベッドに潜り込むと、菜美恵が囁いた。





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