209話 四属性

 城壁を超えて空から眺めると、何やら黒い点々が見えた。


 多分、あれが魔物の集団なのだろう。


 まるでアリの大群のように、地面を埋め尽くしていた。


 すると、リンがスルスルと器用に登ってきて、俺の背後にくっつく。


「リン、そこから見えたりする?」


「もちろんです。ゴブリンやオーク、オーガまでいますね」


「へぇ、それはまずいや」


 オーガは凶暴で、なんでも食すと言われている。

 普段は森の中から出ることはなく、見つけたら最優先で討伐依頼が出るとか。

 ランクも高くB級で、間違ってもこんな王都近くにいる魔物じゃない。


「どうします? あの数では流石に……」


「そりゃ、決まってるよ——民には気づかれないように駆逐する」


「へっ? 気づかれないのは無理では?」


「そこは考えがあるから大丈夫だよ。ルリ、二人分の重さだけどもうちょっと頑張ってね」


「キュイ!」


 身体が成長したことで、そこまできつくはないらしい。

 でも、早めに終わらすに越したことはない。


「はぁ、わかりましたよ……それで、私は何をすればいいです?」


「リンの目なら全体が見れるよね? それこそ、細部まで」


「ええ、闘気を目に纏えば地面の石ころすら見えます」


「それは頼もしいや。それじゃ、まずは近くに人や建物がないか確認してもらえる?」


「わかりました、少し待ってください」


 俺はその間に魔力を貯めておく。

 これから使うのは、俺でも相当持っていかれるはずだから。


「……森から出てきていることもあって、近くに建物はありません。それに人の気配や姿も見当たらないかと」


「よし、それなら条件は揃ったね。じゃあ、もう少し引きつけてから放つか。リン、俺が指を挿す位置に魔物が来たら教えて」


 俺は地面の一箇所を指差す。


「あそこですね……わかりました」


「じゃあ、作戦開始!」


「って、私は何をするか聞いてないのですが?」


「まあまあ、見ててよ」


「はぁ、相変わらずですね。いいですよ、マルス様を信じましょう」


 そして、待つこと数分……。


「いけます! 人も建物もなし!」


「オッケー! ではやりますか! 囲い込め——アースドーム!」


 魔物達を囲むように土の壁を展開する!

 その際に天井部分は開けておく。


「全部入った!?」


「入りました! ……全長何百メートルもあるのに」


「続きまして! 風の結界!」


 その土壁を覆うように、緑の壁を展開する。


「それはなんです?」


「大きな音が王都にいる人達に聞こえ辛くするためだよ。それでも、完全には無理だと思うけどね」


「なるほど……ちなみに魔力は?」


「まだまだ余裕です!」


「……ソウデスカ」


 リンの目が死んでるけど、引き続き行きます!

 ……そういや、これ系を放つのは久々だね。

 いつもは森の中だし、姉さんの専売特許だったし。


「さてさて……ヘルファイア!」


「な、何という大きさ……ライラ様が放った魔法より大きい……」


「そりゃ、元気○をイメージしてるから!」


「……それはなんです? 古代魔法ですか?」


「そ、そんなものですね!」


 アラフォーの皆さんならわかってくれるはず!


「なるほど、それを穴にぶち込むわけですか。しかし、全滅はしますかね?」


「多分、無理だろうね。ただ、次からが本番です……とりあえず、いきますっ!」


 まずは、巨大な火の玉を穴に放り込む。

 次の瞬間に巨大な氷塊をイメージして、空から振り下ろす。


「アイスジャベリンってとこかな!」


「……王城くらいの大きさあるんですが? しかし、折角の炎の威力が弱まってしまうのでは?」


「まあまあ、見ててよ……閉じよ、土の壁」


 氷塊が穴に入った後、素早く天井に蓋をする。


 そして次の瞬間——鼓膜を破きそうな爆音が響き渡るのだった。

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