203話 ヘタレマルス君頑張る

 そして、翌日の朝……いよいよ、兄さんの結婚式パレードを迎える。


 俺も朝から支度やら何やらで、てんやわんやしていた。


 リンは結局、あの後から戻ってきてない。


 今は、シルクのところにいるはずだ。


「あの後、兄さんにも伝えたし……あとは、俺が覚悟を決めるだけだね」


「キュイ?」


「ルリ、今日は大事な日なんだ。俺が一番お世話になった女性に、自分の気持ちを言わないといけない……うまく言えるかわからないけど」


「キュイ!」


「わっ!?」


 ルリが思い切りのしかかってくる!


「キュイキュイ!」


「……頑張れって?」


「キュイ!」


「……そうだね、やるしかないか」


 そして起き上がるタイミングで扉が開く。


「ご主人様〜!」


「師匠〜!」


「おっ、二人とも似合ってるね」


 俺が自分の部屋で待機していると、可愛いドレスを着たシロとラビがやってきた。

 シロは緑色、ラビは青色とヒラヒラしたドレスを身にまとっている。


「「えへへ〜」」


「こんな格好するの初めてです!」


「うんうん! 僕たちまで良いのかな?」


「良いんだよ。これは獣人を差別しないっていう、俺の意思表示でもあるから。兄さんも、協力してくれるっていうし」


 昨日会ったときに、リンに関すること。

 そして獣人達の境遇改善を求めた。

 もちろん、以前よりはマシになったのは確かだ。

 それでも、まだまだ虐げられている獣人はたくさんいる。

 そのためだったら、俺は協力を惜しまない。


「ご主人様……本当に、ご主人様に会えてよかったです」


「ねっ! 僕たち、こんなに幸せだもん! お城を歩いてるのに、嫌な視線も少なかったし」


「それは、こっちのセリフだよ。さて、そろそろ行きますか。二人が来たってことは、リンの準備もできたってことだね?」


「はいっ! えへへ、今はあたふたしてると思います」


「僕達もそうだけど、リンさんも着るとは思ってなかったみたい」


「二人には、リンの側で立ってもらうからね。じゃあ、ルリのことよろしく」


 二人にルリを任せ、俺はシルクとリンがいる部屋の扉を叩く。


「シルク、入っても良い?」


「ええ、もちろんですわ」


「し、シルク様! まだ話は終わって……」


 リンの了承を待たずに。俺は扉を開ける。

 そこには純白のドレスに身を包んだ二人がいた。

 いわゆる、お揃いコーデってやつだ。

 二人とも、めちゃくちゃ綺麗で可愛い……えっ? 俺はこの二人と婚約するの!?

 ……ええい! ここまで来てうじうじすんな!


「リンとシルク、よく似合ってるね」


「ふふ、ありがとうございますの」


「あ、ありがとうございます……うぅ〜、何がどうなって……急にこれを着させられるし、シルク様は変なこと言うし」


「別に変なことは言ってませんわ。私は、私の親友である貴女に言っただけですの。マルス様の隣に立つのは、貴女以外には認めませんと」


 リンの逃げ道を塞ぐために、シルクには事前に言ってもらった。

 リンの気持ちを、自分は許可を出してると。

 シルクから提案されたことで、こうすればリンは自分を言い訳に使えないからだそうだ。

 ここまでお膳立てしてもらって、臆したんじゃ格好がつかないよね。


「リン、昨日のことなんだけど……」


「ひゃい! あ、あれは忘れてください!」


「いやいや、無理でしょ。それで、よくよく考えてみたんだ。そしたら……よくわかんなくなってさ。いつからとか、俺はどうしたら良いのかなって」


「それは……ごめんなさい」


「いや、謝ることないよ。気づかなかったオレがアホだしね」


 なにせ、俺以外は気づいてたって話だ。

 つまり、どう考えても俺が悪い。


「そんなことありません! 私が……ただ臆病だっただけなんです」


「そっか……それで正直な気持ちを言わないといけないって思って。まだ、よくわからないけど——俺はリンにずっとそばにいて欲しい……たぶん、好きって意味で」


「っ!? マ、マルス様!?」


「というわけで、良かったら……これからもそばにいて欲しいです」


「っ……はいっ、これからも貴方のお側に……!」


 すると、リンが泣きながら微笑む。


 それはとても綺麗で、思わず見ほれてしまうのだった。










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