200話 鈍感マルス君、ついに……

 その日の夜、疲れ切った俺は自分の部屋にいた。


 あの後は、大変だった。


 てっきり出席するだけでいいと思っていたら、自分達までお祝いされるたちはになるなんて。


 お陰で打ち合わせやら、何やらであれよあれよと時間が過ぎていった。


 結局、リン達とかと話せなかったし。


「マルス様、よろしいですか?」


「あっ、リン。うん、もちろん」


「それでは、失礼いたします」


 いつもなら勝手に入ってくるのに、やけに余所余所しい。

 ここが王城だから気にしてるのかもしれないね。

 うるさいこと言う人もいるだろうし。

 ……というか、この場合はあっちが正しい。

 忘れそうになるけど、俺はこの国の王子な訳だし……公爵になるし、少しは自覚とか持たないといけないのかなぁ。


「マルス様?」


「あ、ああ、ごめんごめん……少し考えことをしてたや」


「色々とありましたからね……すみませんでした」


「えっ? どうしてリンが謝るの?」


「いえ、マルス様を騙すような真似をしてしまいました。あそこで魔法の試験があることも、広場でのことも事前に知っていたのです」


 ……ああ、俺に嘘をついたことを気にしてたのか。

 だから入ってくるときも、気まずそうにしてたってことね。


「気にしないでいいよ、兄さんから言われただろうし。それにオーレンさん達は、それを含めて試験というか……俺を試したんだろうしね」


「そう言って頂けると助かりますね。はい、そのように仰ってました……改めまして、御婚約おめでとうございます」


「あ、ありがとう……少し照れくさいけどね」


 衣装合わせや打ち合わせでシルクといたけど、全然顔を合わせられなかった。

 別に婚約者になっただけで、特に変わったわけじゃないんだけど。


「……私は、これからも側にいていいですか?」


「……どういう意味かな?」


「婚約者のいる相手の側に女性がいるのは……ましてや、私は獣人ですから」


「別にシルクも知ってるし、リンなら問題ないはずだけど……誰かに何か言われたの?」


 こっちの貴族連中か?

 もしそうなら、流石の俺にも考えがある。

 俺の大事なリンを虐めなら……覚悟してもらうよ。


「い、いえ、そういうわけでは……」


「だったら関係ないよ。これからも、リンには側にいてほしい。もちろん、リンが嫌だって言うなら話は減ったけどね」


「そんなわけありません! 私は……」


「リン?」


「っ〜!! 私は——貴方を一人の男性して好きなんです! だから、そんな私が婚約者のいる方の側にいるわけにはいかないんです!」


「……へっ?」


「はっ……わ、私は何を……っ〜!?」


 そして、リンは部屋から走り去ってしまう。


 俺は後を追うこともできずに、ただ呆然とするのだった。





 ◇




 ……言ってしまった。


 出会ってから五年以上隠していた想いが。


 これも、あの話を聞いてしまったからだ。


 公爵家になるマルス様のお相手として、私をどうかという。


「ただの奴隷で獣人である私に……そんな自信はない」


 でも、マルス様の側にはいたい。


 そして、シルク様の側にも。


 ロイス様もオーレン様も、その許可は出してくれた。


 後は、私の気持ち次第だと。


「でも、マルス様は? そんなことを勝手に決めていいの?」


 シルク様と二人きりの方がいいんじゃないのかな?


 そもそも、マルス様は私をそういう対象として見てないし。


 姉というか妹というか……たまにエッチな視線はあるけど。


「でも、それでマルス様とギクシャクする方が嫌です」


 だから、ずっと迷っていた。


 あの話を聞かされた時から、さっきまでずっと。


 マルス様の側にいることが、私の全てで夢だったから。


「あぁ、なんで言っちゃったんだろう? しかも、逃げたしちゃった……マルス様、追っかけても来ないし……やっぱり迷惑だったかな?」


 ……もし何もなければ、明日の話は断ろう。


 そしたら、いつも通りにマルス様の側にいれるようにお願いして……ダメだったら、側を離れるしかない。









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