199話 マルス、勇気を出す

 ……待て待て、落ち着いて。


 まずは、状況を整理しよう。


 俺は何やかんや功績を挙げて、公爵になりなさいと兄さんに言われた。


 それ自体は頑張ろうって決めた。


 それが、穀潰しと言われた俺にできる恩返しだと思ったから。


「……シルクと婚約?」


「お、お父様、どういうことでしょうか?」


「何だ、嫌なのか?」


「い、嫌ってことはないですわ! というか、その……嬉しいですけど」


 そう言い両手を頬に当てて、こちらをチラチラと見る様は天使だった。

 違った、可愛いシルクさんでした……間違いでもないか。


「なら決まりですな」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「何? うちの娘に何か不満があるのですか?」


「マ、マルス様……?」


「いやシルクは可愛いし、不満とかじゃなくて……ちょっと整理します」


「突然ですからな。私も、国王陛下から聞かされた時は驚きました」


 そもそも、俺とシルクの関係は?

 ここを追放された時に、婚約破棄をされたと思っていた。

 ただ、オーレンさんが訪ねてきた時に、婚約破棄にはなってないと聞かされた。

 それはロイス兄さんが、頭を下げたからだとか。

 そして、結果的に……婚約保留みたいになったんだ。


「……つまり、保留だった婚約を正式に発表ということでよろしいですか?」


「ええ、そういうことになるかと。元々、功績を挙げたら正式に婚約するとは決めていたので。なにせ、公爵となるのに婚約者もいないのでは問題になりますので」


「何か問題があるんですか?」


「ええ、色々とあるのですよ。さて……了承ということでよろしいですかな?」


「いや、えっと、その……シルクはいいのかな?」


「ふえっ!? わ、私はその……言わせないでくださいの」


「ぐはっ!?」


「マ、マルス様?」


 指をツンツンしてからの上目遣いはダメージがでかい!

 しかし、ここで膝をつくわけには……!

 ……そうなると、しっかりとする必要があるよね。


「平気平気……じゃあ、シルク-セルリアさん」


「は、はい、マルス-フリージア様」


「色々とあったけど……俺ってば頼りないし、シルクに迷惑ばっかりかけちゃってるし……ただ、シルクのことが好きなんだ。その……もう一回、俺と婚約してくれますか?」


「……グスッ……」


「わわっ!? な、泣かないで!」


「ひぐっ……ご、ごめんなさい」


 どうしよう!? 圧倒的に経験値が足りない!

 リンエモーン! ……そこで、ふとリンと目が合う。

 そして、俺に頭を撫でるジェスチャーをしてくれた。

 流石はリンエモン!

 俺はシルクが落ち着くまで、その柔らかい髪を撫でることにした。

 そして、数分後……ようやく、シルクが顔を上げる。


「えっと……シルクさん」


「す、すみません……つい、嬉しくて。幼き頃から、ずっと願っていましたの。いつか、マルス様がそう言ってくれるのを。最近はマルス様はご立派になりましたし、私がいなくても平気かなって思う時もありますし……」


「いや、そんなことないよ。それはみんながいたからだし……シルクに情けないところ見せたくないから頑張った部分が大きいんだ。ほら、男って好きな女の子の前ではかっこいつけたいし」


「えへへ、マルス様はかっこいいですの……私にとっては誰よりも」


「そ、そう? ははは……」


 いかん! 全身が熱くなってきた!

 照れ臭いぞぉぉぉ!


「コホン! 婚約者になる許可はしたが、父親の前でイチャイチャされると困りますな」


「し、してませんの!」


「ご、ごめんなさい〜!」


「とにかく、これで二人の許可はおりましたな。あとは、明日のパレードで正式に発表するとしよう。二人も、そのつもりでいるように」


 その言葉に、俺とシルクが頷く。


 前世の記憶を思い出してから約半年、色々なことがあった。


 もし記憶を取り戻していなければ、こうなることもなかったかも。


 シルクの笑顔を見ながら、そんなことを思うのだった。








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