198話 マルス、公爵を了承するが……

 ……公爵ってなんだっけ?


 えっと、うちでは確か王族の分家的なやつだっけ?


 基本的にはうちは作らない方針だとか聞いたことはある。


 何故なら、公爵になると


 王家が断絶した場合とか、本家に男子が生まれなかった時とか。


「公爵って……何で?」


「何でってお前……それだけのことをしたんだよ。領地開拓や、セレナーデ王国との交易、氷魔法による運搬の改革、それにより食糧難を防いだこと……きりがない」


「でも、まだまだだよ? まだ放牧とか、森を開拓とか、街道整備とか……全然、終わってないし」


「そんなもの、すぐにはできるものじゃない。普通なら、何年もかけてやることだ。むしろ、お前は早すぎる」


 ……そうだったのか。

 全然、自分では遅いと思っていた。

 目的である牛乳や、それを使った加工品、森の奥地の探索などあるし。


「それはわかったけど、どうして公爵?」


「理由は三つある。一つ、うちには王族が少ないこと。二つ、公爵になればいちいち俺の許可を取らなくていい。三つ、あの地を復活させるという意思表示になる」


「ふむふむ……確かにうちは男子は多いけど、その子供が男子とは限らないか。許可とかってとったことないけど……もしかして必要だった?」


「当たり前だ」


「……ごめんなさい」


「いや、結果的に良かったからいい」


「じゃあ、今後は好きにやっていいってことか」


 最後の意味はわかる。

 国王陛下が俺を公爵に任命し、あの地にやることで民は本気度を理解するだろう。

 そして、その子供達が公爵家を継いでいくと。

 でも、公爵かぁ……考えたこともなかった。


「ほ、ほどほどにな……俺の胃が痛くならないように」


「それはもちろん。でも、ライル兄さんはダメなの?」


「絶対にわかってないな……はぁ……あいつには、俺のせいで苦労をかけてきた。できれば、この先は自由にして欲しいと思っている」


「……それは確かに」


 ライル兄さんのことだから、言われたら断らなさそう。

 今はセシリアさんのこともあるし、枷をはめるとはよくない。

 何より……うん、俺の気持ちは決まったね。


「それでどうだ? お前にも苦労はかけるが……国王として命令してしまったが、お前がどうしても嫌だという」


「ロイス兄さん——その話を受けます」


 その言葉を遮って、俺は言葉を発する。

 それだけは、ロイス兄さんに言わせちゃダメだ。

 散々俺たちのために頑張ってきた人に、これ以上嫌な役目を押し付けてはいけない。


「マルス……いいのか? 言っておくが、お前の嫌いな責任とか面倒なことがあるぞ?」


「まあ、それは嫌だけど……でも、いいんだ。ライル兄さんやロイス兄さんのおかげで、俺は今までそういうのを負わずに生きてきたから。これからは、その重荷を少しは背負おうかなって」


「……そうか、そう言ってくれるか。マルスよ、感謝する。では、お前を正式に公爵としよう」


「それはこっちのセリフだよ。いつも、俺たちのためにありがとう。ライル兄さんとライラ姉さんからも、よろしくって言われてる」


「っ……! あの馬鹿共が……」


 何かを堪えるように上を見上げた兄さんの肩に、オーレンさんが手を置く。

 そして兄さんを後ろにやり、俺の前に出てくる。

 ……そうだった、こっちがメインだって言ってた。

 いつも以上に威圧感があり、俺の膝が震えそうになる……怖いよぉ〜!


「さて、国王陛下には少しお休み頂きます。して、マルス様」


「ひゃい!」


「……そんなに緊張しなくても結構です。これから、


「……はい?」


「お、お父様!?」


「明日の式典にて、マルス様とシルクの正式な婚約発表の場とする」


 その言葉に俺とシルクが顔を見合わせ……お互いに固まるのだった。








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