197話 パフォーマンス
とは言ったものの、小心者のマルス君。
何を言われるのか、正直言ってドキドキです。
ただ民 みんなも見てるので、頑張って背筋を伸ばす。
「さて、本題に入る前に……マルス、良い顔になったな。以前とは見違えるほどだ」
「はは……まあ、色々とあったからね」
「本当に色々とあったな。そして、その優しいところは変わらずに……いや、違うか。そもそも、俺たち兄弟のために穀潰しを演じていたのだから」
「……はい?」
「みなまで言うな。実は、先程の魔法の戦いをこっそり見ていた。そして、実際にお前に魔法の腕があるのも実感した……まさか、ローランド殿より強いとはな。その力がもっと早くに知られていたら、王位継承権で争いが起きていたはずだ。それなのに、そんなことも知らずにお前を追放してしまったこと——すまなかった!」
「ちょー!? 何を頭下げてるの!? ここ民の方々いるけど!」
国王とは、文字通り国の頂点に君臨する存在だ。
それが、弟とはいえ民衆の前で頭を下げていい存在ではない。
どうして、今のタイミングなんだ!
そもそも、俺にはそんなつもりはなかったんですよぉ〜!
「それを分かった上だ。俺は兄としても、国王としても失格かもしれん。弟の気持ちにも気付かず、俺はお前にとって口うるさい兄だったろうに。それでも、お前は俺を兄さんと呼んでくれた。正直言って、こっちきたら何か言われるのを覚悟していたくらいだ」
「……そんなことないよ。兄さんは立派な国王で、俺の自慢の兄さんだ。父上の顔は正直言って記憶にないけど、その代わりに兄さんの怒った顔はよく覚えてるから。俺にとっては、兄さんというより父親に近いかもね。そりゃ、うるさいなって思うこともあったけど……俺は兄さんが好きだよ」
「マルス……そう言ってくれるのか」
「そもそも、家族で争うのは嫌だし。俺、ライル兄さんもロイス兄さん、もちろんライラ姉さんも好きだから。だから、そんなこと気にしなくていいよ。いつもみたいに、俺を叱ってくれないと気持ち悪いし」
「……そういうところは相変わらずだな。ったく、手のかかる弟だ」
「まあね、それが末っ子の特権でしょ」
「おい、それは自分で言うことではない」
「はーい、ごめんなさい」
すると、それまで凍っていた空気が和らぐ。
「良かった……やはり国王陛下は立派な方だ。きちんと謝れたし、それをお許しになったマルス様もご立派になられて」
「やっぱり、国王陛下とマルス様の仲が悪いって噂は嘘だったんだ。これを見て思う奴がいたら節穴もいいところだぜ」
……どうやら、民の皆さんは俺と兄さんが不仲だと思っていたらしい。
確かに公の場で絡んだことはないし、真面目な兄とできの悪い弟って印象だよね。
ましてや追放もされてるし、そう思われても仕方ない。
俺は確認のために、兄さんに近づく。
「ロイス兄さん、もしかして仲良しって見せたいの?」
「ほう? そういうのもわかるようになったか。計算がないといえば嘘になる……ただ、先程言ったことは本音だ」
「うん、それはわかってる……ねえ、頭を撫でてよ」
「なに? そこまでする必要は……」
「違うよ……俺がして欲しいから。生まれてこの方、兄さんに褒められたことないし」
「……そうだったな。マルス、よくぞ辺境バーバラを良くしてくれた。国王として、兄としてお前を誇らしく思う」
兄さんに撫でられると、何やらむず痒い気持ちになる。
でも同時に心がじんわりして、幸せな気持ちにもなった。
「へへ、ありがと。ただ、自分の好きなようにやってただけだけど……そういや、本題はなんだったの?」
「ああ、その件か。いや、それに繋がる話でもある。俺も明日、正式に結婚をする。ライルにも、そろそろ自分の進退を決めてもらう。そしてマルス……お前には、王弟ではなく公爵になって欲しい」
「……はい?」
俺がその言葉を理解するまで、少しの時間を要するのだった。
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