196話 仕掛け人

 模擬戦を終えて、外に出てみると……。


「あれ? リン達がいないね?」


「ほんとですわ。何処に行ったのでしょう?」


「キュイー?」


「多分、あそこじゃろう……コホン、お主達はこっちに来るといい」


 俺とシルクは顔を見合わせつつも、大人しくローランドさんについていく。

 ルリは解放されたからか、ご機嫌に空を泳いでいる。

 そして、裏路地から噴水広場に出た。


「あっ、ここに出るんだね」


「そうみたいですの。ところで……どうして人に囲まれているのでしょう?」


「キュイー」


 確かに噴水の周りには人集りが出来ていて、俺達を取り囲んでいた。

 すると、その人波の中から兄さんが現れた。

 しかも隣にはリンやラビやシロまでいる。

 それどころか……オーレンさん!?


「お、お父様!?」


「うむ、久しいなシルク。どうやら、元気そうで何よりだ」


「いついらしたのですか? まだお兄様が帰ってから一日しか経ってませんが……てっきり明日の結婚式当日にくるものかと思ってましたわ」


「ふむ、その予定だったのだが……国王陛下に呼ばれては仕方あるまい。ゼノスとは中継地点の街で会って引き継ぎをしてきた。そして、そこからは寝ずにやってきたというわけだ」


 道理で、疲れてそうなわけだ。

 普段はピシッとして余裕があるのに、今は眉間にシワも寄ってるし。

 心なしか、歳を取ったような気がする。


「お、お疲れ様でした。ですが、何のためにそこまで?」


「その前に順番に挨拶をさせてくれ。ローランド様、お久しぶりですな」


「ほほ、久しぶりじゃのう。それにしても、流石のお主も歳を取ったな」


「私もそろそろ引退を考える年齢ですから。ところで、マルス様は如何でしたか?」


「ふむ。人柄、魔法の腕共に問題なし。特に魔法は、わしを打ち負かすほどじゃ」


「……貴方がお認めになるというなら本物でしょう。これで、私の決心も固まりました」


 ……さっきから何の話をしているのだろう?

 というか、周りの人達も黙ってるし。

 リンに視線を向けても気まずそうに逸らすし……コワイ。


「さて、マルス様。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。お久しぶりでございます、バーバラを訪ねて以来でしょうか」


「は、はいっ! ご無沙汰してます!」


「バーバラの噂は、私の所にも届いております。己の魔法を民のために使い、その生活を豊かにしたこと。獣人との関係性を改善したこと。セレナーデ王国を救い、数十年ぶりに交流を再開させたこと。氷魔法を使い、流通を便利にさせたこと……キリがありませんな」


「え、えっと、俺はそんな立派なことはしてません。ただ、 色々な方に助けてもらっただけなので」


「なるほど、謙虚な方だ。私は、これまで一体何を見ていたのやら……やはり、年寄りがいるとろくなことなりませんな。これからは、若い者達の時代か」


 というより、ほとんど好き勝手にしてただけなんですけど?

 自分がしたいこと、欲しいものをって感じで。

 ……それでみんなが笑ってくれたり、感謝してくれるのは嬉しかったけどさ。


「そ、それより! 一体、どうしてここに?」


「そうでしたな……うむむ」


「お父様? どうしたのですか?」


「あー、いや、うん、そのだな……」


 こんなオーレンさんは珍しい。

 いつも物をはっきりという人だし。

 すると、ロイス兄さんが俺達のところにくる。


「やれやれ、オーレンといっても娘の大事の前にはこれか」


「……悪かったですな」


「ロイス兄さん、これは一体……」


「まあ、こいつも普通の親父だってことだ。さて、本題に入ろう。マルス、俺の問いに真剣に答えろ。そうしないと、お前の首がとびかねん」


「えっ!? 怖いんだけど!?」


「ただの比喩だ。そのくらいの覚悟を持って答えろということだ」


「……うん、わかった」


 兄さんのこんな顔は久々に見る。


 そして、記憶の取り戻す前の俺といえば……いくものらりくらりと躱してた。


 でも、記憶を取り戻した今の俺は違う。


 俺は覚悟を持って、兄さんを見つめるのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る