195話 魔法戦
その後、両親のことを聞いていると、何やらローランドさんが時計を気にする。
いつのまにか、一時間くらい立っていた。
そういえば、リン達を待たせてるんだった。
「あっ、もうこんな時間ですわ」
「じゃあ、そろそろ出ようか」
「う、うむ……ったく、ワシはこういうの向かんわい。だから、政治から身を引いたというのに」
ローランドさんはなにやら気まずそうにブツブツ言っている。
あまりに小声で、よく聞き取れなかったけど。
「えっと?」
「コホン……まあ、ついでだからいいか。マルス様、一つお願いをしてもよいかの?」
「え、ええ、俺にできることであれば」
「ワシと魔法模擬戦をしてもらいたい。あのライラを負かしたという実力を見せてもらえんか? ワシも賢者と言われた身、その力は気になるのじゃ」
「ああ、そういうことですか。ええ、もちろん良いですよ」
「決まりじゃな! それでは、地下にいこうかの」
その後、隠し扉から地下へと案内される。
するとそこには広い書庫の部屋、もう一つは何もないただ広いだけの部屋があった。
ローランドさん曰く、上が来客用でこっちが本来の住処らしい。
「あっちの部屋が本来の研究室じゃ。こっちは弟子やライラとの鍛錬に使っておった。頑丈な作りと、魔法を防ぐ特殊な障壁で作られている。なので、遠慮なく使うがいい」
「なるほど……姉さんの魔法を防げるならある程度は平気ですね」
「ルリちゃん、私達はこちらで見てますわよ」
「キュイ!」
ルリとシルクが離れるのを確認し、俺とローランドさんが距離をとって対峙する。
すると、飄々としていたローランドさんの表情が変わる。
「さて、本気で来るがいい」
「では、お言葉に甘えて……ロックブラスト、ウインドカッター、ファイアーボール、アクアショット」
「ほほっ! いきなりの四属性か! 全て阻め、アースウォール!」
高さ三メートルを超える土の壁が出てきて、俺の四つの魔法を相殺する。
俺の魔法を防ぐってことは、かなりの魔力が込められるってことだ。
さすがは、姉さんの師匠だけはある。
「これなら手加減はいらなそうですね」
「ほほっ! そんなことを言われたのは初めてじゃな! 次々行くぞい——貫け、アースランス! 降り注げ、アクアレイン!」
丸太のような巨大な石の槍と、上から水の雨が降り注ぐ!
その雨の威力は強く、目も開けていられないほどだ。
「くっ!? フレイムウォール——からのエアバースト!」
「むむっ!? ……やりおるわい」
「そちらこそ……危なかったです」
「何をいうか、あっさり防ぎおって……ライラ以来じゃな、これが防がれたのは」
炎の壁で水の雨を相殺し、空気の暴風で石の槍を粉々に砕いた。
どうにか防いだけど、正直言って危なかった。
さすがは、姉さんの師匠なだけはある。
「それは良かったです。あとで姉さんに叱られずに済みそうですね」
「ほほっ、あやつは怖いからな。さて、ワシの能力はわかったのう? ワシは水と土を操るダブルじゃ。お主ほどではないが、魔法使いの中でも珍しい」
「姉さんとは真逆ってことですか。俺は全属性を持ってるみたいです。といっても、まだまだ使いこなせてないですけど」
「うむ、それは見ればわかる。というわけで、お手本を見せよう——飲み込め、サンドウェーブ!」
「うわっ!?」
泥の波が押し寄せてきて、俺の足が動かなくなる。
これは水と土の複合魔法だ! 俺以外にもできる人がいた!
「ふふ、どうじゃ? これで敵軍の動きを止めることができる。しかも、無傷で」
「確かにこれを外すのは大変かも……ふんっ!」
足に魔力をまとい思い切り足を振り上げると、どうにか破壊して抜け出せた。
「なっ!? な、なんという魔力……力づくで抜けだしおった。なるほど、ライラのいう通り規格外のようじゃな。それゆえに、魔法の技術が拙いと」
「ぎくっ……はは、魔法を覚えて日が浅いので」
「確か、まだ半年足らずとか……恐ろしい才能じゃわい。もしも幼き頃より、ワシに弟子入りしていたら英雄になっていたやもしれん」
「そういうものには興味がないんです」
「ほほっ、それはそれで面白い。まあ、そんなことになれば王位継承で揉めたであろう。ふむふむ、良き兄弟愛じゃ。だからこそ、ワシも茶番に協力しようと思ったのだが」
王位継承権……そんなことはまるで考えてなかったけどね。
こちとら、魔法を使えることを知らなかったし。
そもそも、最近まで前世の記憶がなかったわけだし。
「茶番? どういうことです?」
「いや、気にするでない。とりあえず、お主の力はわかった。まだまだ未熟じゃが、これから覚えればいい。せっかく、魔法は組み合わせができるのにもったいない。それと、もっと多種多様な魔法を覚えることじゃ……よいな?」
「は、はいっ!」
「うむ、良き返事じゃ。それでは、上に戻るとするかのう」
先ほどの問いには、思わず背筋が伸びた。
俺には魔法の師匠なんかいないけど、もしいたらこんな感じなのかな?
……もっと早く記憶が戻ってたら、違った未来もあったのかもね。
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