194話 昔話

その後、ローランドさんは許可を取ってルリの身体を観察する。


ルリは戸惑いつつも、良い子にしてそれを黙って受け入れている……多分。


「ふむふむ、しっかり成長している。しかし、栄養はどうなってるのだろう? 魔力が栄養……魔石を食べる? つまり、マルス様の魔力で生まれたという説は正しい? そもそも、親はどこに? 魔力が足りないと生まれないとすれば、個体数が少ないのも頷けるが……」


「キュイー……」


「はは……ルリ、少し我慢してね。その人、ライラ姉さんと同じタイプだから」


「キュイ!」


なるほど! といった様子で、ルリは納得したらしい。

あっちでも、姉さんには色々と調べられていたからなぁ。

二人とも研究のことになると、他のことが目に入らないみたい。


「ふふ、というよりライラ様が似たのかと思いますわ」


「まあ、師匠だしね」


「それもありますが……ライラ様は甘えを許されない方でしたから。ローランド様といる時は、ただのライラでいられたのかなって」


「あぁー……そうかもね。それは、俺のせいでもあるし」


「あっ、そんなつもりは……」


「いやいや、気にしないで。シルクがそういう事を言ってくれると助かるし。俺ってば、全然そういうのに気づかないからさ」


実際問題、俺のせいで姉さんが苦労したことは事実だ。

母親の代わりとなって、俺を育ててくれたし。

姉さんは気にしないけど、そこのところは忘れちゃいけない。


「もう、そういうのは自分で気づいて欲しいですわ」


「あはは……善処します。でも、シルクがいるから平気だよ」


「……それって、この先もってことでしょうか?」


「うん? そりゃ……そうしてくれたら嬉しいけど」


「ふふ……仕方ないですの」


あれ? これってそういう意味で伝わってる?

いや、それはそれでいいんだけど……あぁ、たまにはカッコつけたいなぁ。

俺ってば、そういう経験値が足りない。

何か機会があれば頑張るんだけど……うーむ。


「コホン! すまんが、人の家でイチャイチャするのはやめてくれんかのう? なにせ、ワシはこの歳になっても独身なのだが?」


「し、してませんわ!」


「あっ、ごめんなさい」


「キュイー!」


「ワシが止めようとしたら、こやつに止められたわい。まあ、両方の両親を知る者としては嬉しいがのう」


そうだ、シルクの両親を知ってるのは当然として、俺の両親も知ってるってことだ。

むしろ立場的には、俺の両親をよく知ってるはず。

そんな当たり前のことに今更ながら気づいた。


「私の母上も、生前お世話になったそうですわ」


「別に大したことはしとらんよ。お主の父親が奥手だったので、ワシがケツを蹴ったくらいじゃな。まあ、お主の母親がグイグイ攻めておったが」


「お、お母様ったら……それにして意外ですわ、お父様はいつも即断即決の方ですから」


「それはそうならざる得なかったのじゃ。最愛の妻を亡くして幼い子供達を託され。そして国境を守るという重圧……更には親友であった国王夫婦を亡くし、若き国王を支えなくてはいけなかったであろうな。よく、娘に寂しい思いをさせていると愚痴っておったわい」


「……はい、今ならわかりますわ。お父様が私たちのために頑張ってきたことは」


……俺たち兄弟も、オーレンさんには本当に助けられた。

もしオーレンさんがいなければ、俺たち兄弟はそれぞれに派閥を作られていたかもしれない。

そしたら骨肉の争いに発展していた可能性もある。

兄さんや姉さんと争うなんて死んでも嫌だ。


「しかし本当に亡き母親に似てきたのう」


「本当でしょうか?」


「うむ、尻に敷くところなんかはそっくりじゃ」


「し、敷いてなんかいません!」


「えっ? そうだったの?」


「もう! マルス様!」


「わぁー! ごめんって!」


「……敷いておるではないか」


「「はっ」」


「ふふ……」


「あはは……」


俺とシルクは思わず顔を見合わせて微笑む。


今度、オーレンさんに会ったら改めて伝えようと思った。


お礼はもちろんのこと、それ以外も。






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