193話 考察
中に入ると、意外と整理整頓された綺麗な部屋が目に入る。
奥には暖炉、手前に椅子やテーブル、右奥には小さなキッチンがあった。
こういう研究者の部屋って、ごちゃごちゃしてるイメージがあったけど……。
「マルス様、あまりジロジロ見ては失礼ですわ」
「あっ、そうだよね」
「ほほ、構わんわい。意外と綺麗じゃろ?」
「え? ……正直、想像と違います」
こう、本の中に埋もれてるイメージだった。
というか、研究者って生活力皆無なイメージ。
「ワシもごちゃごちゃしてる方が楽なんじゃが……弟子達がうるさくてのう。お主の姉にもよく叱られたわい」
「では、俺と一緒ですね」
「ほほっ! それもそうじゃな! ……っと、いかんいかん。つい言葉遣いが……」
「いえ、そのままでいいですよ。公の場でもなく俺は末子ですし、姉さんの師匠にあたるのですから。多分、姉さんにも敬語を使っていないでしょう?」
それに敬語ではないけど、偉そうな感じでもない。
ごくごく自然にしてるから、こっちも受け入れられる。
「うむ……だが、シルク嬢ちゃんがのう。そやつは父親に似てお堅い……」
「ローレンス様?」
「わ、わかった! ワシが悪かった! だから睨まんでくれ!」
「もう! それと、私は気にしないので平気ですわ」
「……ったく、気の強いところは母上そっくりじゃわい。しかし、丸くもなったか……恋は女を変えるか」
「な、何を言っているんですの!?」
なにやら二人は仲が良さそうである。
誰に対しても礼儀正しいから、こういうシルクは珍しい。
邪魔してはいけないので、俺はルリを撫でつつ待つことにした。
◇
その後、ようやく席について落ち着く。
側から聞いていたけど、シルクの両親とローレンスさんは知り合いらしい。
というより、オーレンさんの師匠でもあるとか。
「それってすごいですね」
「そうですわ。今いる優秀な魔法使いは、一度は師事しているかと」
「ほほ、ただ歳をとってるだけじゃよ。さて……本題に入ろうかのう」
「はい、ルリのことですね」
「キュイ?」
みんなで視線を向けると、ボール遊びをしていたルリが振り向く。
うん、可愛い……じゃなくて。
「ルリ、おいで」
「キュイ!」
「ルリちゃんは大きいから、私たちの横に来てくださいね」
俺のシルクが座ってる椅子の間にルリがおすわりする。
すでに一メートルは超えているので、テーブルから顔が少し出ている状態だ。
「ふむ、先程も思ったが知能が高いのう。それに、知性も感じられる」
「ええ、俺たちの言葉は完全に分かっているみたいですね。ワイバーンなんかとも意思疎通ができるみたいですし」
「ふむ、その報告はライラから聞いておる。しかし、こうして目にするまでは信じられなんだ……生きているうちに出会えることに感謝じゃ。さて、確認じゃ……重複になるが、ワシの質問に答えてくれるかのう?」
「ええ、平気です」
その後、俺は質問に答えていく。
まずは森で卵を拾ったこと、俺の魔力で生まれたこと。
俺を親だと思っていること、今のところ本当の親は現れていないこと。
凶暴さのかけらもなく、無邪気な良い子で魔石を餌にすること。
空を飛び水中も平気で、水と風を操ることができることなど。
「魔力を餌にする……そして魔石を食べる……空を飛んで風と水の二属性を操る。古文書に書かれている内容とは少し違うが、それに類似している存在はいる」
「えっ!? そ、そうなんですか?」
「うむ、この間発見したというか地下にある山から出てきたというか……これなんじゃが」
「失礼いたしますわ」
シルクが手に取った絵を俺も覗き込む。
そこには、空に舞う黄金のドラゴンが描かれていた。
周りには風が吹いて、雨が降っている。
「確かに雨と風が吹いてるね……それに、体の形も似てる。四肢があって、長い尻尾が生えている」
「そうですわね。ただ、体の色が違いますの」
「そうだね、ルリは蒼いし。ただ、これを見る限りは相当大きい。もしかしたら、ルリのお母さんかも?」
「キュイ!」
すると、ルリが俺とシルクに身体を寄せてくる。
まるで『違う!』とでも言うように。
「ふむ、どうやら本人的には違うようじゃ。この古文書は古いし、その可能性は低いじゃろう。それにこう言ってはなんだが、信憑性も低い」
「それもそうか……うーん」
「ただドラゴンが魔石を食べるという話は聞いたことがないのだ。伝承とはいえ、それくらいは残っているがのう。つまり、この子は特別という可能性が高い。そして、意図的にお主の元に現れた可能性も」
「ルリが特別……意図的に俺の元に」
「魔力が豊富にあるマルス様を求めてってことでしょうか?」
「うむ、それもありそうじゃな。生きるために、マルス様に惹かれたか……」
「……まあ、どっちでも良いです。俺にとっては、ルリは可愛い妹みたいなものですから」
「ふふ、そうですわね」
「キュイー!」
……ルリは特別、そして意図的に俺の元か。
俺自身に使命などはないと思っていたけど……もしかして、その可能性もあるのかな?
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