193話 考察

中に入ると、意外と整理整頓された綺麗な部屋が目に入る。


奥には暖炉、手前に椅子やテーブル、右奥には小さなキッチンがあった。


こういう研究者の部屋って、ごちゃごちゃしてるイメージがあったけど……。


「マルス様、あまりジロジロ見ては失礼ですわ」


「あっ、そうだよね」


「ほほ、構わんわい。意外と綺麗じゃろ?」


「え? ……正直、想像と違います」


こう、本の中に埋もれてるイメージだった。

というか、研究者って生活力皆無なイメージ。


「ワシもごちゃごちゃしてる方が楽なんじゃが……弟子達がうるさくてのう。お主の姉にもよく叱られたわい」


「では、俺と一緒ですね」


「ほほっ! それもそうじゃな! ……っと、いかんいかん。つい言葉遣いが……」


「いえ、そのままでいいですよ。公の場でもなく俺は末子ですし、姉さんの師匠にあたるのですから。多分、姉さんにも敬語を使っていないでしょう?」


それに敬語ではないけど、偉そうな感じでもない。

ごくごく自然にしてるから、こっちも受け入れられる。


「うむ……だが、シルク嬢ちゃんがのう。そやつは父親に似てお堅い……」


「ローレンス様?」


「わ、わかった! ワシが悪かった! だから睨まんでくれ!」


「もう! それと、私は気にしないので平気ですわ」


「……ったく、気の強いところは母上そっくりじゃわい。しかし、丸くもなったか……恋は女を変えるか」


「な、何を言っているんですの!?」


なにやら二人は仲が良さそうである。

誰に対しても礼儀正しいから、こういうシルクは珍しい。

邪魔してはいけないので、俺はルリを撫でつつ待つことにした。



その後、ようやく席について落ち着く。

側から聞いていたけど、シルクの両親とローレンスさんは知り合いらしい。

というより、オーレンさんの師匠でもあるとか。


「それってすごいですね」


「そうですわ。今いる優秀な魔法使いは、一度は師事しているかと」


「ほほ、ただ歳をとってるだけじゃよ。さて……本題に入ろうかのう」


「はい、ルリのことですね」


「キュイ?」


みんなで視線を向けると、ボール遊びをしていたルリが振り向く。

うん、可愛い……じゃなくて。


「ルリ、おいで」


「キュイ!」


「ルリちゃんは大きいから、私たちの横に来てくださいね」


俺のシルクが座ってる椅子の間にルリがおすわりする。

すでに一メートルは超えているので、テーブルから顔が少し出ている状態だ。


「ふむ、先程も思ったが知能が高いのう。それに、知性も感じられる」


「ええ、俺たちの言葉は完全に分かっているみたいですね。ワイバーンなんかとも意思疎通ができるみたいですし」


「ふむ、その報告はライラから聞いておる。しかし、こうして目にするまでは信じられなんだ……生きているうちに出会えることに感謝じゃ。さて、確認じゃ……重複になるが、ワシの質問に答えてくれるかのう?」


「ええ、平気です」


その後、俺は質問に答えていく。

まずは森で卵を拾ったこと、俺の魔力で生まれたこと。

俺を親だと思っていること、今のところ本当の親は現れていないこと。

凶暴さのかけらもなく、無邪気な良い子で魔石を餌にすること。

空を飛び水中も平気で、水と風を操ることができることなど。


「魔力を餌にする……そして魔石を食べる……空を飛んで風と水の二属性を操る。古文書に書かれている内容とは少し違うが、それに類似している存在はいる」


「えっ!? そ、そうなんですか?」


「うむ、この間発見したというか地下にある山から出てきたというか……これなんじゃが」


「失礼いたしますわ」


シルクが手に取った絵を俺も覗き込む。

そこには、空に舞う黄金のドラゴンが描かれていた。

周りには風が吹いて、雨が降っている。


「確かに雨と風が吹いてるね……それに、体の形も似てる。四肢があって、長い尻尾が生えている」


「そうですわね。ただ、体の色が違いますの」


「そうだね、ルリは蒼いし。ただ、これを見る限りは相当大きい。もしかしたら、ルリのお母さんかも?」


「キュイ!」


すると、ルリが俺とシルクに身体を寄せてくる。

まるで『違う!』とでも言うように。


「ふむ、どうやら本人的には違うようじゃ。この古文書は古いし、その可能性は低いじゃろう。それにこう言ってはなんだが、信憑性も低い」


「それもそうか……うーん」


「ただドラゴンが魔石を食べるという話は聞いたことがないのだ。伝承とはいえ、それくらいは残っているがのう。つまり、この子は特別という可能性が高い。そして、


「ルリが特別……意図的に俺の元に」


「魔力が豊富にあるマルス様を求めてってことでしょうか?」


「うむ、それもありそうじゃな。生きるために、マルス様に惹かれたか……」


「……まあ、どっちでも良いです。俺にとっては、ルリは可愛い妹みたいなものですから」


「ふふ、そうですわね」


「キュイー!」


……ルリは特別、そして意図的に俺の元か。


俺自身に使命などはないと思っていたけど……もしかして、その可能性もあるのかな?









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