192話 ローランド

俺のおかげだなんて驕るつもりはないけど、確かに変わっていってる街並みを眺めつつ歩いていく。


そして、シルクの案内の元……ひと気のない場所にポツンと建つ平屋の家に到着する。


「ここがライラ様の師匠が住んでいる場所ですわ」


「えっ? こんなところに住んでるの? 姉さんの師匠ってことは、結構偉いんでしょ?」


「偉いも何も……マルス様、ライラ様の職業は何か知っていますの?」


「えっと……宮廷魔導師だっけ? その中の隊長っていうか、偉い人なのは知ってるかな」


ただ、正直言ってあまりよく知らない。

俺は魔法が使えないと思ってたし、使おうとも思ってなかった。

知っていたのは兄さんが騎士だとか、姉さんが魔法使いだとかくらいだ。

実際に何をしてたとかは……うん、知らないね。


「えら……良いですわ。先に説明をしておくと、ライラ様は宮廷魔導師長という我が国の魔法部隊の頂点に立つ方ですの。もちろん、王族という理由もありますが、その実力も折り紙つきなので」


「うんうん、実際にすごいもんね」


「いや、それに対抗できるマルス様も相当なのですが……とにかく、そのライラ様の魔法の師匠にあたる方がここにいらっしゃるのですわ。同時に伯爵家の当主でもありますが、立場は私のお父様に近い者という認識でお願いしますの」


「なるほど……それは気を引き締めないとね」


「いや、その必要はないわい」


ふと振り返ると、扉から一人の年老いた男性が現れた。

白髪の髪に渋い顔、ローブをまとい杖をついていて……まさしく、魔法使いといった感じだ。


「ローランド様、お久しぶりでございます」


「うむ、シルク嬢もな。相変わらず、べっぴんさんじゃのう。亡き母君によく似ておるわい」


「ふふ、ありがとうございますわ」


「それで、そちらがマルス様か……」


俺は相手をオーレンさんだと思い、姿勢を正して挨拶をする。

何より、姉さんの師匠にあたる方だし。


「初めまして、マルスと申します。姉上が大変お世話になったのに、ご挨拶も出来ずに申し訳ない」


「……なるほどなるほど、やはり噂など当てにならんということですな」


「いえいえ、普段はちゃらんぽらんてすし」


「ほほっ、それなら無理はせんでいいですわい。ワシなら気にしないので、いつも通りにしてください」


「そういうことなら……わかりました」


「まあ、立ち話もなんなので入ると良いかと……何より、その子が気になるのでな」


それはそうだろう……何故なら、俺達とはほとんど視線が合っていない。

ずっと、空に浮かぶルリを目で追っている。


「ルリ、おいで。この人は平気だから」


「キュイ?」


空からおりてきて、俺の後ろにやってくる。

そこから顔だけをのぞかせて、ローランドさんをじっと見つめている。


「おおっ……! これが噂の高位ドラゴン……! まさか、生きてるうちにあいまみえようとは!」


「キュイ!?」


「これはすまぬ、びっくりさせてしまったかのう」


「好奇心はあるんだけど、割と臆病な子なんです」


「ふむふむ、ドラゴンは臆病と……いや、それはたまたまか? しかし、そうであれば人里に現れないのも理由がつく。そもそも、本当に強い種族というのは臆病だともいう。ならば、臆病なことも……」


その顎に指先を添えて考える仕草は、ライラ姉さんによく似ている。

それと、考察しだしたら周りが見えなくなって止まらない癖も。

どうやら、本当に師匠って感じだ。


「すみません、とりあえず中へ入って良いですか?」


「おおっ、これは申し訳ない。だが、流石に全員は入れないですが……言っておきますが、ワシは獣人だろうと構わないですが」


「ええ、そこはわかってます。リン、悪いけど二人を頼むね」


「ええ、お任せください。ラビとシロと組手でもして遊んでます」


「わーい! やりますっ!」


「わ、わたしも!」


というわけで三人を残し、俺とシルクとルリで部屋の中に入っていくのだった。







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