191話 リン視点

 ……懐かしい。


 それでいて、昔とは少し変わっている。


 奴隷も見かけるが、暗い顔をしていない者も多い。


 本当に、少しずつ良くなっているみたいだ。


 正直言って……これで、私の罪悪感も少しは楽になった。


 私はいつも、私だけが救われてることに罪悪感を抱いていたから。


 たまたま、マルス様に拾って頂いただけ……そんな私が、こんなに幸せで良いのだろうか?


 ましてや、あんなことまで……。


「「リンさん!」」


「キュイ!」


「三人とも、どうしましたか?」


「ご主人様達行っちゃいますよー?」


「立ち止まってどうしたんですか?」


 ……どうやら、物思いに耽るあまりぼーっとしてしまったようです。


 これでは、護衛失格ですね……しっかりしないと。


 決して……あの話を聞いたからではありません。


 そう、ロイス様からマルス様との関係について。



 ◇



 晩餐会の夜……マルス様が部屋にいて、シルク様が着替えをしている間、一足先に着替えを済ませた私はとある部屋に呼ばれた。


 そこには、国王陛下とルーカス様だけが待っていた。


「リン、わざわざすまないね。それと、よく似合っている」


「ええ、そうですな。あの幼子が、すっかり立派な女性となりました」


「あ、ありがとうございます……それで、私だけが呼ばれたのはなぜですか?」


「ふむ、まずは座ってくれ。そなたに話があるのでな」


「……はい、わかりました」


 この方々のことだから、私の身分が不相応だから晩餐会には出るなとかではないはず。

 何か、重大な任務があるとか……まさか、マルス様をよく思わない連中が動くとか。

 席に着いた私は、背筋を正して真剣に話を聞く姿勢に入る。


「まあ、そう硬くなるな。まずは……我が弟マルスが世話になった。リン、お主には感謝してもしきれん。よくマルスについて行ってくれた。お前がいたから、我々は安心して辺境に送り込むことができたのだ」


「あ、頭をあげてください! ルーカス様も何か言って……って、どうして貴方まで頭を下げているのですか!?」


「私からは謝罪を。私の目が曇っておりました。まさか、マルス様にあんな力があったとは……それを最初から信じていたのはリン殿とシルク様でしたね」


「それは……私だって知らなかったんです。ただ、私はマルス様のお力になれたら良いって……あの方に、命を救ってもらった恩を……奴隷だった私と、家族になってくれた恩があります」


 そうだ、別に魔法が使えるとか関係ない。

 私にとっては、マルス様は変わらずに……私にとってのヒーローだ。

 この暗闇の世界から、私を救い出してくれた。


「ふっ、兄である俺の方が節穴だったな」


「まったく、私もです」


「あと、それはマルス様に直接言った方が良いかなと思います」


「無論、それはわかってる。しかし、照れ臭くてな……」


「私も叱っていた手前……ですが、あとできちんと伝えましょう」


「きっと、マルス様も喜びますよ」


 ……そこでふと気づく。

 これが、私に話したかったことなのだろうかと。


「話はそれだけですか?」


「いや、そうではなくて……実は、お主に伝えたいことがある。マルスとシルク嬢についてだ。あの二人を再び婚約させようと思う」


「その発表を、明日の昼間に二人に内緒で行うつもりです」


「……それは良いことですね」


 マルス様とシルク様は、辺境の生活でより親密になった。

 たまに、私が入り込めないくらいに。

 それが少し嬉しくもあり、寂しくもある……複雑だ。


「うむ、二人を見ていたら仲が進んでいたようだしな。一応、オーレンの許可も取ってある」


「では、私が邪魔という話ですか? 婚約をするなら……」


「違う違う、そういう話ではない。むしろ、逆だ」


「……逆ですか?」


「リン、俺はな……お前のことも家族のように思っている。俺は立場があるし、表立って態度で示したことはないから信じられないかと思うが……」


「い、いえ! そんなことありません! ロイス様は私にも良くしてくれましたし、マルス様の側にいることも許してくれました……」


 そもそもライラ様が許可したとはいえ、国王であるこの方が許可しなければ……女性で奴隷である私が、マルス様の側に居られなかった。

 小さい頃は冷たい人かなと思ったが、今ならわかる。

 立場があり不器用なだけで、本当は優しい人なんだと。


「そうか、それなら良かった。それでだ……俺は子供ができたら、マルスには新たに公爵の爵位を与えるつもりだ」


「それと私に何か関係あるのですか?」


「そうすれば、マルスは複数の妻を迎えることができる……できれば、その相手はお前だと嬉しい。君とマルスには、獣人との架け橋になって欲しい」


「ふぇ? わ、私ですが!? ですが、シルク様が……」


「シルク嬢の許可は取ってある。むしろ、リン以外にはあり得ないとさ。何せ、自分の父親に直談判したくらいだ」


「……シルクさまぁ……」


「別に、今すぐにどうこうという話ではない。ただ、頭に置いておいてくれ……俺も可愛い妹分の君になら、マルスを任せられる」


 ◇


 その後のことはよく覚えていない。


 ふわふわしたまま部屋に帰り、いつの間にかうたた寝をしてしまった。


 部屋に戻ってきたシルク様に起こされ、すぐに晩餐会に行くことに。


 結局、シルク様は何も言ってこない。


 あとは、私の自由意志に任せたということなのだろう。


 ……私は一体、これからどうしたら良いのかな?


 マルス様と一緒にいたいけど、獣人との架け橋なんて……自信がない。











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