189話 実感する
……くるちい。
何か重たいものが身体にのしかかっているような……。
こ、これが金縛りってやつなのか?
「キュイー」
「……って、ルリの仕業かい」
「キュイ?」
「いや、可愛らしく首を傾げても……まあ、可愛いけどさ」
どうやら、俺の身体の上に乗っていたらしい。
金縛りの正体はルリってわけだ。
「そうだ……昨日は確か……シルクを追いかけて……その後、みんな疲れて寝ようかって話に……というか重たい」
一メートルを超えるので、結構重たい。
……でも、その愛くるしい瞳は相変わらずだ。
「キュイー!」
「はいはい、わかった。お腹が空いたんだよね」
眠い目をこすり、ベッドから降りる。
そして机にある袋を開けて、魔石を投げると……ルリが空中でパクッと口に入れる。
「キュイーン!」
「おっ、ナイスキャッチ」
「キュイキュイ」
「楽しかったのかな? それじゃ、もう一回っと」
そんな感じで遊びながらルリにご飯をあげていると……扉が開く。
「マルス様、おはようございます」
「リン、おはよう」
「マルス様が起こす前に起きるなんて……」
「ちょっと? 酷くない?」
「普段の生活を振り返るといいかと」
「ぐぬぬ……」
すると、ルリがリンに体当たりをする。
「キュイ!」
「ルリもおはようございます。なるほど、ルリが起こしてくれたんですね」
「キュイー」
「ふふ、いい子ですね。それでは、食事に行くとしましょう」
「へーい。確かにお腹は減ったね」
リンとルリと一緒に部屋を出て、前に使っていた自分の食事用の部屋に入る。
そこにはすでに、シルクやシロやラビの姿もある。
「師匠、おはようございます!」
「ご主人様、おはようございます!」
「二人とも、おはよう」
「マ、マルス様、おはようございます……」
シルクの方を向くと、なにやら視線が合わない。
昨日も追いかけたけど、顔も見ずに『寝ます!』とか言ってたなぁ。
やっぱり、仕事の邪魔をしたのがダメだったかな?
「ごめんね、シルク」
「な、なんで謝るんですの?」
「いや、目が合わないからさ。やっぱり、昨日の俺はダメだったかな?」
「そ、そんなことありませんわ! あれは……ゴニョゴニョ……マルス様が悪いんですの!」
「ええっー!? 結局はどっちなの!?」
「はいはい、とにかく席についてください。マルス様大丈夫ですよ、私もシルク様も昨日のマルス様は頼もしかったですから……ねっ?」
「は、はぃ……かっこよかったですの」
「そ、そう? それならいいけど……た、食べよっか!」
なんだか気恥ずかしくなったので、慌てて席に着く。
すると、俺のお腹が鳴る音がする。
「クスクス……もう、マルス様ったら」
「し、仕方ないじゃんか! 昨日はご飯の味なんかしなかったし! すぐ寝ちゃったし!」
「でも僕もお腹すきました!」
「わたしもー!」
「ええ、私もです。さあ、食べましょう」
端っこの方で寝転がっているルリに癒されつつ、朝ご飯を食べる。
具沢山のスープに柔らかいパン、ベーコンや卵など。
当たり前のように食べていたけど、今はそのありがたみがわかる。
あっちに行った頃の食事とかはアレだったし。
「ふぅ……食べた食べた。さて、これからどうするの?」
「昨日も大変でしたし、今日は自由にしていいと言われています。明日は盛大な結婚式がありますし、英気を養って欲しいと」
「うん? 俺は主役じゃないのに?」
「ええ、ですがライラ様とライル様の分もありますから。今、ここにいる王族は国王陛下とマルス様だけです」
「あっ、そういうことかぁ……めん」
「めんどくさいとは言わせませんよ?」
「……へーい」
まあ、二人からも頼まれてるし……頑張るとしますか。
「それでは、ライラ様の頼み事をすませますわ」
「何のこと?」
「マルス様? まさか、お忘れになったのですか? ライラ様の師匠にあたる方に、ルリちゃんを見せるって話でしたね? それもあって連れてきたのですから」
「……あぁー! あったね! そんな話!」
「もう! マルス様!」
「そんな前のことは覚えてないよ! ねえ! みんな!」
周りを見ると、『そんな事はない』と首を振る。
読者のみんなも忘れてたよね! きっとそうに違いない!
「ともかく、そういうことですわ。まずは、城下町を眺めつつそこに行きますの」
「まあ、シロやラビに王都を案内しないとだしね」
「わぁーい! 楽しみです!」
「ワクワク……」
「それじゃあ、行こうか」
一度部屋に戻り準備を済ませたら、馬車に乗って王城を出て行く。
その際に窓から見える光景は、以前とは少し違う気がする。
「なんというか……明るくなった?」
「あっ、マルス様も気づきましたか」
「それもそのはずですの。昨日色々な方とお話をしましたが、マルス様のおかげもあって庶民の方々の生活水準も上がってきたみたいですわ。それに、獣人に関する扱いも変わってきたそうです。つまりは、人々の心に少し余裕ができたということですわ」
「あっ、そうなんだ? そうだね、悲しいけれど……人は心に余裕がないと他者に優しくできないし。それなら、少しは頑張ってきた甲斐があったね」
「マルス様はご立派にやってますよ。そして、私自身も救われましたから」
「はいっ! わたしたちも幸せになりました!」
「僕たちを助けてくれたのは師匠です!」
「ふふ、そうですわ。マルス様、もっと誇ってください。きっと、辺境にいる皆さんも感謝していますから」
「……うん」
未だに褒められるのは慣れない。
どうにも照れ臭く、頬をかいてしまう。
ただ……こうして実際に言われたりすると嬉しい。
俺のやってきたことに意味があったのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます