188話 嫉妬

 アレが効いたのか、変なのは寄ってこなくなった。


 代わりに良識のある貴族達が寄ってくる。


 流石に邪険にするわけにはいかず、一生懸命に相手をする。


 そして限界を迎えるタイミングで……。


「さて、ここらで一度挨拶をしよう。ルーカス、頼む」


「ええ、かしこまりました。皆様、今日はお集まりいただき……」


 ……だめだ、眠くて頭に話が入ってこない。

 それに、まるで校長先生の話を聞いてるみたいだし。


「今、ここで寝たら台無し……」


「マルス様、ローラ様が来ます」


「へっ? わ、わかった」


 リンの言葉でなんとか姿勢を正す。

 俺のせいで、兄さんに悪印象を抱かれたら困るし。


「先ほどぶりです、マルス様」


「はい、ローラさん。それで、どうしましたか?」


「マルス様、今のうちに下がりましょう。ロイス様とルーカス様が良いと」


「えっ? ……いいんてすか?」


 周りを見ると、まだまだこれからって感じだ。

 食事が終わって、お酒の飲みながら談笑している。


「貴方達は成人してるとはいえ、まだまだ子供ですから許されます。それに……ロイス様が、よくやったと。後は、俺に任せとけと」


「兄さん……ったく、素直じゃないなぁ」


「ふふ、私もそう思います」


「ですよねー」


 ほんと、記憶が蘇る前の俺は何を勘違いしていたんだか。

 兄さんは、ただの不器用な人だよね。

 すると、リンが俺の脇を小突く。


「マルス様、少し帰るのは早いかと」


「どうしたの?」


「あそこを見てください」


「ふんふん……へぇ、なるほどね」


 それに気づいた俺は気がつけば、そこに向かって歩いていた。

 そして、男性陣に囲まれてるシルクのところに行き、話に割り込みに行く。


「すいません、少し良いですか?」


「な、なんだね、君は……マルス様!?」


「これはこれは……」


 男達を無視して、シルクの手を取る。


「ど、どうしたんですの?」


「シルク、迎えにきたよ。さあ、帰ろう」


「で、ですが、まだお話が……」


「いいから。みなさん……良いですかね?」


「「は、はいっ!」」


「ありがとうございます。それじゃあ、行こう」


「は、はぃ……」


 動揺するシルクの手を引き、リンの元に戻る。


「マルス様、よくできました」


「ええ、リンさんの言う通りかと。シルクさんもお疲れでしょうから、お休みになってください」


「わ、わかりましたの……確かに少し疲れました。マルス様、ありがとうございますわ」


 そう言い、俺に向けて微笑む。

 その顔は可愛く、俺の心臓が跳ね上がる。


「いや、もちろんそれもあったけど。ほとんどは……ただの嫉妬なんだけどね」


「……ふぇ?」


「いや、なんか男性陣達に囲まれてたし」


「そ、それって……はぅ」


 若い人達もいたし、明らかにそういう視線を向けてる奴もいた。

 そしたら、なんかイライラしてきたし。


「ごめんね、お仕事の邪魔をして」


「い、いえ! 私なら平気ですわ! ……え、えっと、私はこれで!」


 俺たちを置いて、シルクが走り去る。


「ふふ、初々しいですね。しかし、これなら問題なさそうです」


「ん? なんの話です?」


「いえ、何でもございません。それより、追った方がよろしいかと」


「それもそうだね。リン、俺たちも行くよ」


 シルクの後を追って、俺たちも会場から出て行くのだった。







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