187話 嘘を本当に

 一頻り食べて満足していると、タイミングを見計らって貴族達がやってくる。


 多分、話しかけるかどうか迷っていたのだろう。


 何故なら……それは以前、俺を穀潰し王子と呼んでいた人たちだった。


「これはこれは、マルス様」


「お久しぶりでございます」


「すっかり見違えましたな。いやはや、我々の目も確かだったですね」


 なんともまあ、白々しい感じだ。

 といっても、俺としては喧嘩するつもりはない。

 俺が穀潰しだったのは事実だし、色々な人に迷惑をかけてきたから。

 ただ……ある一言さえ言わなければね。


「みなさん、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」


「マルス様こそ。色々と活躍をしているとは、この王都まで届いておりますぞ」


「ええ、それはもう。辺境の開拓、セレナーデ王国との交渉、しかも魔法まで使えるとは……我々も驚きです」


「まさか、そんなものを隠していたとは」


 その目は懐疑的だった。

 なるほど、俺の魔法が本当か確認しにきたのか。

 そういや、この王都では一回も使ってなかったね。


「では、皆さん気になってるの思うので……ほいっと」


 俺は火の玉、水の玉、土の玉、風の玉を出現させ、それをお手玉のように宙に舞わせる。

 すると目の前の貴族だけじゃなく、周りからのどよめきが起きた。


「おおっ!!」


「まさしく四属性の魔法!」


「ま、まさか、本当に……しかし、何故今まで黙っていたのです?」


 俺は一瞬だけ、兄さんに視線を向ける。

 すると、その目はお前に任せると言っていた。

 ……信頼されるっていうのもむず痒いや。


「別に隠していたわけじゃないですよ。これも国王陛下の指示によるものです」


「なんと? それはどういう?」


「俺は兄さんと仲が良いですから。でも、魔法が使えるとなったら色々と面倒でしょう? 俺はこの通り、初代聖女と同じ髪色ですから。だから使えることは黙っていました」


 全くのデタラメですけどね!

 ただ使えるのは知らなかっただけなんです!


「そんな話が……むむ」


「確かに四属性の魔法が使えると知られていたら……」


「王位継承にも影響が出た可能性が……だらだらしてたり、国王陛下に叱られたりしてたのはカモフラージュだったと」


「ええ、そういうことです」


 ……違いますけどぉぉ!! 早く話を終わらせてぇぇ!

 頬がヒクヒクして、笑いを堪えるのに必死です!

兄さん! 貴方も笑いを堪えるのに必死なのはバレてますよ!


「これは、まんまと騙されましたな」


「いやはや、全くです。そうだと知ってたら、我々とて……そのねえ?」


「ええ、本当に。ところで……隣にいるのは獣人ですね?」


 きたね、この手の質問が。

 それを聞いたリンが俺の服の端を掴む……横を見ると、その顔は強張っていた。

 それは出会った頃の弱々しいリンの姿だった。

 おそらく、昔を思い出してしまったのだろう。


「ええ、俺の従者であるリンです。皆さんもご存知かと」


「ええ、知っておりますとも」


「しかし、このような場にはふさわしくないかと」


「もしあれでしたら、私どもの方で女性を……」


 俺はその瞬間、リンの手を強く握る。

 その言葉だけは聞き流せないから。

 それを言われたら、どうするかだけは決めていたから。


「マ、マルス様?」


「リン、平気だよ……今度はきちんと守るから。獣人だろうが、リンは俺にとって大事な人です。もし侮辱するつもりなら……俺に喧嘩を売ってると見なしますのでお覚悟を」


「っ〜!? マ、マルス様……」


 リンはこんな俺にずっとついてきてくれた。

 俺がどんなにダラダラしても、追放されても。

 リンが幼い時は、何か言われても守れなかったけど今は違う。

 今度は、しっかり守ってみせる。


「い、いえいえ! 私たちにそのつもりはございません!」


「て、撤回いたします!」


「そ、それでは我々はこれで!」


 そう言い、足早に去っていった。


 ふと隣を見ると、リンが俺の腕にぎゅっと抱きつく。


 俺は照れ臭く、その場で頬をかく。


どうやら、今度はしっかり守れたみたいだね。



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