186話 初対面

部屋に入った瞬間、全ての視線が俺へと向けられる。


その慣れないことに、思わず下を向いてしまいそうになるけど……。


隣にいるシルクとリンが、腕を組む力を強める。


そうだ……二人だって緊張しないわけない。


特にリンはこういうことに慣れてない……曲がりなりにも王弟である俺がしっかりしないと。


そう思うと、自然と背筋が伸びる気がした。


「おおっ、マルス様だ」


「すっかり見違えましたな」


「ええ、堂々としてらっしゃる」


そのおかげが、そんな声がチラホラ聞こえてくる。

どうやら、恥だけはかかずにすみそうだね。

すると、ロイス兄さんが女性を連れてやってきた。


「マルスよ、よく来たな。今回は無礼講なので、そこまで肩肘は張らないで良い。お前は慣れておらんからな」


「ほっといてよ。仕方ないじゃん、こっちは経験がないんだからさ」


「ははっ! それはお前がサボってたからだろ」


「はいはい、そうですよー」


すると、周りにいる貴族の方々の空気が緩む。

俺と兄さんが軽口をたたくことで、険悪じゃないと示せたみたい。

これで、作戦通りにはいったけど……この金髪碧眼の綺麗な女性は誰だろう?

身長も高いし、モデルさんみたいにスタイルも良いや。


「さて、お前も気になっているだろうから紹介をしよう。ローラ、挨拶をしなさい」


「はい、陛下。マルス様、初めまして。アトラス侯爵家のローラと申します」


「ご丁寧にありがとうございます」


「彼女は……その、俺の婚約者だ」


「ええっ!? こんな綺麗な人が!? 堅物の兄さんの何処が良かった……ウソウソ! 冗談ですから!」


睨まれたので慌てて訂正する。

アブナイアブナイ、ここには止めてくれる宰相さんもいないし。


「ふふ、仲がいいんですね?」


「ふんっ、生意気な弟だよ。まあ、俺には勿体ない女性なのは確かだ」


「そ、そんなことはないです。私など、女性らしさもないですし……山を駆けずり、武闘ばかりしていたので」


「そんなことないさ。そのおかげで、俺は助かっている。君の話は聞いてて楽しいし」


「あ、ありがとうございます……」


「あらあら、兄さんは幸せ者だね」


「ああ、そうだな」


……ほほう、あの兄さんが女性とイチャイチャしとる。

なんというか、不思議な感じがするなぁ。

すると、タイミングを見てシルクが一歩前に出る。

少し遅れてリンも出てきた。


「国王陛下、ローラ様、遅れましたが婚約おめでとうございます。明日の結婚式も楽しみにしております」


「えっと……国王陛下、ローラ様、おめでとうございます」


「お二人共、ありがとうございます」


「ああ、ありがとう。リン、無理はしないで良い」


「す、すみません」


そういえば、この二人の組み合わせも新鮮だ。

兄さんとリンが話してるところなんか、数回程度しかないかも。


「二人とも、マルスが世話をかける」


「いえ、これも私の務めですわ」


「それが私の願いですから」


「全く、マルスには勿体ないくらいだ。こんな美姫を二人も引き連れて。先程から、視線が集まっているのがわからんのか」


「へっ? そうなの?」


改めて周りを見ると、確かにシルクとリンに視線が集まっていた。

意識して会話を聞いてみると……。


「すっごい綺麗だわ……」


「獣人がこの部屋に来るなど反対しようと思ったが……」


「タイプが違う美姫を連れて、マルス様が羨ましいな」


そんな会話がなされていた。

そして、改めて隣にいる二人を見てみると……周りにいる女性よりも、圧倒的に綺麗だった。

そうだ……忘れがちになるけど、この二人はめちゃくちゃ可愛いんだった。


「ほんとだね。まあ、二人とも可愛いから無理もないかな」


「「ふえっ!?」」


「ほほう? あの朴念仁のマルスが言うようになったではないか」


「ふふん、俺だってやればできるんです」


「そうか……これなら、俺も安心して公表ができる」


「なんの話?」


「いや、気にしないで良い。さて……今日は簡単な挨拶だけにしておこう。ここからは自由に過ごすと良い」


そう言い、ローラさんを連れて別の人のところに行く。


どうやら、これで目的は達成したみたい。


俺も肩から力が抜けて、お腹が空いてきた。


「疲れたしお腹減ったね」


「もう、仕方ありませんの」


「ですが、無理もないかと。今日ついたばかりで、このイベントは……私もきついです」


「まあ、慣れないお二人ですから……リン、マルス様を任せますわ。お二人は、お食事をなさってください」


そう言い、近くにある女性陣の集まりの中に入っていく。

あっという間になじんで、何やら話が弾んでいる。


「何気にシルクって凄いよね。事務作業もそうだけど、社交性というか……」


「ええ、本当に。おそらく、彼女がいなければ我々は辺境で躓いてました。それに、こういう場面でも恥をかくことに」


「……もっと感謝しないとだね。あと、それに報いないといけない」


「ならば、行動をするべきですね」


「……うん、わかってる」


俺は覚悟を決めつつも、この後の戦いに備えて腹を満たすのだった。


















 

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