183話 リン視点

 部屋を出て、シルク様と歩いていると……。


「キュイー!」


「あら、ルリちゃん。すぐに戻るから、部屋で待ってなさいって言ったでしょ? いきなり出会った方々がびっくりしてしまいますわ」


「キュイー」


 その姿はしょんぼりして、大きくなっても可愛らしいものです。

 そして、その気持ちが何となくわかる気がします。


「……きっと不安で寂しかったのでしょう」


「リン?」


「私もそうでしたから。誰もいない知らない場所で、部屋に一人でいるのは不安でした。きっと、ルリもそうなのかと。シルク様やマルス様を探していたんですよ」


 ……私も一人にされると不安で、よくマルス様を探しに行ったっけ。

 そういえば……その道中で貴族達に嫌がらせをされたけど、マルス様が飛んできてくれた。

 あの時から、私にとってはマルス様はヒーローだった。

 たとえ、誰がなんと言おうとも。


「キュイ!」


「あっ、そうだったですの。ルリちゃん、怒ってごめんなさい」


「キュイー」


 そして、シルク様に身を寄せて撫でてもらう。

 その姿は、幼き日の自分を思い出す。


「ふふ、大きくなっても甘えんぼさんですわ」


「キュ!」


「それでは、ルリちゃんもお風呂に行きますか?」


「キュイ!」


 すると首を振って否定の意思を示した。


「多分、次はマルス様のところに行きたいのかと」


「あっ、そうですわね。今、マルス様は独りぼっちですし。ルリちゃんは良い子ですわ。それじゃあ、マルス様のことをお願いしますの。そこの扉を開ければいますから」


「キュイー!」


 そして、マルス様の部屋に突撃をする。

 私達はマルス様の悲鳴を聞きつつ、その場を後にするのでした。






 お風呂場に向かうと、シロとラビが待っていた。


「お二人共、おまたせしましたわ。何か問題はありましたか?」


「い、いえ! ラビちゃんがいたので!」


「シロちゃんがいたから平気ですっ!」


「ふふ、それなら良かったですわ。さあ、お風呂に入りましょう」


 心配してましたが……この二人は平気ですね。

 私と違って、頼れる友がいるのですから。

 本当なら私も……マルス様にとってそういう存在でありたかったのに。

 そして、脱衣所にて服を脱いでいると……。


「わぁ……相変わらず、リンさん綺麗です!」


「ほ、ほんとですっ! すらっとしてるのに、おっぱいが大きくて……僕、まだぺったんこですぅ」


「ほんとですわ……私も痩せないといけませんの」


「べ、別に、こんなのあっても良いことありません! シルク様の方が女性らしくて素敵ですし」


 私が男性だったらと思うことは少なくない。

 そしたらマルス様の望む友達になれたし、シルク様に変な対抗意識を持つこともなかった。

 女性の身だと、マルス様は遠慮をしてしまいますし。

 最近では何だか、女性扱いをされたり……う、嬉しいですけどね。

 浴室に入ったら軽く身体を洗って、湯船に浸かる。


「ふぅ、気持ちいいですね」


「ふふ、そうですわね」


「わぁー! シロちゃん! 泡が目に入っちゃうよー!」


「わわっ!? ご、ごめんね!」


 視界の先では、シロとラビが楽しそうにじゃれあっている。

 それは、小さい頃に私が望んでいた光景だ。


「……良いですね」


「リン?」


「いえ……私は中途半端です。マルス様のお側にいたいのに、どうしても女性なので無理がありました。マルス様は最近、男友達が欲しかったと……私が男だったら」


「それは……でも、私はリンが女性で良かったと思いますわ。こうして友達になれましたし、マルス様もそういう意味では言ってないはずですし」


「ええ、わかってはいるんです。ただ、少しだけ思っただけです」


 すると、シルク様が私の両肩に手を置く。


「リン、生まれを言っても仕方ありませんわ。今の自分にできることをしますの」


「今の自分に出来ること……」


「マルス様を守ることですわ。それは女性である私とリンの役目ですの」


「どういうことですか?」


「先ほども言いましたけど、立食パーティーではマルス様に群がる女性が増えると思います。悪感情が消えた今、魔法が一流で黒髪の貴公子であるマルス様がモテないわけがありませんわ」


「……確かに、そうかもしれないですね」


 穀潰しと呼ばれていたマルス様だけど、元々黒髪で可愛らしい容姿で人気はあった。

 ただ侯爵令嬢であるシルク様がいたこと、マルス様があんな感じだったから寄ってこなかっただけで。

 第一夫人は無理でも、その次を狙ってくる令嬢はいるかもしれない。

 もしくは、セシリアさんみたいに親に頼まれてとか。


「だから、私と一緒にマルス様を守ってください。それは、女性であるリンにしかできないことですわ」


「でも……私で良いのでしょうか?」


「もちろんですわ、リンは綺麗ですから。それに、前も言いましたけど……私はリン以外は認めませんわ」


「シルク様……」


「ばっちりおめかしして、みんなの度肝をぬいてやりますの」


「……わかりました、それが私に出来ることなら」


 そうだ、生まれを後悔しても仕方ない。


 今の私で、マルス様にできることを考えよう。

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