182話 置いてけぼりのマルス

 みんなが出て行った後、懐かしのベッドの上に寝転ぶ。


 記憶を取り戻す前の俺は、よくこうしてゴロゴロしていたなぁ。


 朝起きては食べて、すぐに昼寝して……おやつを食べるために起きて、あちこちでダラダラしたり……夜ご飯を食べては寝て、起きて風呂に入って寝て……。


「改めて……我ながら、ひどい生活だ。そりゃ、ロイス兄さんも怒るよねー」


 流石に、今の俺はそこまでじゃない……はず。

 うん、きっとそのはず。


「ねえ! みんな!?」


「また独り言ですか? 相変わらず好きですね」


「ちょっと? リンさんや、いつからいたんだい? いたんなら声をかけてよ」


 いつの間にか、ベッドの脇にリンが立っている。

 でも、そんな感じも懐かしいや。

 俺がダラダラしていると、いつもリンが相手をしてくれたよね。


「ふふ、懐かしいですね」


「……ちょうど、同じことを思ってたよ」


「前も言いましたが、あれから半年以上ですからね」


「そうだよね〜」


 すると、今度はノックの音が聞こえる。


「マルス様? あけても良いですか?」


「良いよー」


 扉が開き、シルクが顔を覗かせる。


「リンの姿が……やっぱり、ここにいましたわ」


「すみません、シルク様。私に何か用でしたか?」


「いえ、部屋に使いの方がきてお風呂の準備ができたと。この後は食事会もあるので、我々もまずは身綺麗にしないとですわ。きっと、ドレスを着ることになるので」


「シルク様はともかく、私もですか?」


「当然ですわ。今回の食事会に、マルス様のパートナーとして参加してもらいますの。もちろん、貴族の方々に混じって」


「……ふぇっ?」


「ん? どういうことだろう?」


 いまいち、話の流れが見えない。

 どうやら、リンも同じらしく動揺している。

 今までは参加しても護衛しかなかったからだろう。


「ど、どういうことですか? 食事会はともかく、パートナーというのは?」


「多分、そういう流れになるかと思いますわ」


「ごめんね、シルク。馬鹿な俺にもわかるように説明してくれると助かるな」


「お恥ずかしいながら私も……すみません」


「あ、頭をあげてください! コホン……もちろん、きちんと説明させて頂きますわ。多分、それが私に求められている役目でしょうから」


 そう言い、扉を閉めて中へと入ってくる。

 ひとまず俺も起きて、三人でテーブルを囲んで座ることした。


「それで、どういうこと?」


「そんなに難しい話ではありませんわ。あのパレードは、おそらくマルス様の功績を称えるためと、それが真実だと知らせること、さらにはマルス様と国王陛下の関係が良好だということ……この三つの意味があったかと思いますの」


「そ、そうなんだ?」


「……なるほど、そういった意図があったと。確かに、言われてみればわかります。マルス様の恩恵を受けた市民達が、国王陛下に悪感情を抱かないように。あとは良好ということを示して、マルス様と国王陛下の間に貴族達が茶々を入れないように」


「その通りですわ」


「ふんふん、そうなんだね」


 ……だめだ、俺には全然わかんないや。

 そういう小難しい話は、前世の頃から苦手である。

 我ながら、なんと頭の悪いことか。

 とりあえず、わかったふりして黙ってきいてようっと。


「……マルス様? 絶対にわかってないですわよね?」


「ぎくっ!?」


「初めてぎくって言う人を見ましたね」


「リン、そこはほっといてよー。とにかく、兄さんが何かをしたってことでしょ?」


 政治的なアレは俺にはよくわからないけど、兄さんがすることなら間違いないし。

 俺としては自分が楽をできれば、あとはどうでも……ゲフンゲフン。


「ふふ、すみません。ええ、そういうことかと。シルク様、続きはお風呂で話しませんか? 食事の時間もありますし、そっちの方が効率が良さそうです。マルス様に説明をしていたら……コホン」


「リンさーん? 酷くない?」


「それが良いですわ。マルス様、それがわからないところがマルス様の良いところですの。私は、そういう方を……あの、アレですわ……と、とにかく! あとは私達にお任せくださいませ!」


「ええ、シルク様のいう通りかと。それでは、私達は二人も連れてお風呂に行ってきますね」


 そして、二人は部屋を出て行った。


「……とりあえず、俺も風呂に入るか」


 ……マルス君は色々な意味で置いてけぼりのようです。

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