181話 兄の本音

ゼノスさんを見送った後、衛兵に案内される。


どうやら俺は、以前使っていた部屋に滞在するらしい。


その隣にある部屋にシロとラビ、向かいにある部屋でシルクとリンが滞在するみたい。


そういや俺だけぼっちだよォォォ! レオかベアがいればなぁ……男友達欲しい。


しかし、今から作るとなると難しい問題である……何処かにそれなりの地位で、同じくらいの男の子はいないだろうか?


「全く、酷い目に遭ったよ。結局、怒られるし」


「あれはマルス様が悪いかと。というか、私は笑いを堪えるのに必死でしたよ」


「ふふ、国王陛下も素直じゃありませんの」


「そうなの?」


「ええ、そうですわ。お部屋に行けば、きっとわかりますの」


「どういうこと?」


「まあ、まずはお部屋に参りますわ」


シルクの言う通りに、ひとまず俺の部屋の前にくる。

そして中に入ると……そこには、前と何一つ変わらない姿の部屋があった。

綺麗に整えられた広い部屋、様々な家具やテーブルにベッド。

いや、変わっていたモノはあった。


「……これって……肖像画?」


「はい、そうですわ」


部屋の壁には俺達四人兄弟の肖像画と、両親の肖像画が飾ってあった。

俺たち四人の年齢は、今のものに近い形で描かれている。

それは、以前はなかったものだ。


「こんなのなかったよね?」


「マルス様が出て行った後、国王陛下が用意したみたいですわ。そして、たまにこの部屋でぼーっとしていたみたいですの。私も、マルス様の領地に行く前に何度か目撃していましたの」


「そうなんだ……でも、なんでだろ?」


「多分、寂しかったのかと思いますわ。なんだかんだで、マルス様のことが可愛かったのでしょう」


「……そっか」


いまいち実感はなかったけど、やっぱりロイス兄さんも俺のことを愛してくれてたってことだね。


もちろん、ライル兄さんやライラ姉さんから話は聞いていたし、手紙も貰ったからわかっていたつもりではあったけど。


俺ってば、ロイス兄さんに迷惑かけてばかりだったし。


そうなると……俺も恩を返さないといけないよね。


よし、しっかりとお役目を果たすとしよう。






……全く、あやつときたら。


全然、変わっとらんではないか。


ひとまず謁見を終えて私室に帰ってきたが……。


「ご機嫌ですな?」


「宰相よ、どこを見たらそうなる?」


「ご自覚がないのですか? いつも眉間にシワを寄せた顔が、今はニヤニヤしていることに」


「し、しとらんっ! これはイライラしているのだ」


マルスには、まだまだ言いたいことが沢山ある。

どうして力を隠していたとか、俺のことをどう思っていたのとか。

実は俺のことを嫌いだったとか、俺だけが知らなかったとか。

……あっ、胃が痛くなってきた。


「……今度は、何を泣きそうになっているので?」


「な、なっとらん!」


「はぁ、相変わらず兄弟が絡むとポンコツになりますな」


「ポンコツいうな! というか、ほっとけ!」


「くく……そういうところは、亡き先王陛下にそっくりですな」


だめだ、分が悪い。

こういう時の宰相には敵わない。

とりあえず、話を変えなくては……。


「そ、それより! お前が考えた策略はうまく行ったか?」


「ええ、上々かと思いますよ。マルス様の偉業に対して疑問を感じていた民も、あれで本当だとわかったでしょうし。それを追放してしまった国王陛下に対する悪感情も無くなったかと思います。むしろ、それを英断と思うようになったかと」


マルスがきたらパレードを行うように進言してきたのは宰相だ。

言った通り、そういう狙いもあったが……何より、そうすることによって俺とマルスが仲違いをしていないとアピールするために。

あの侯爵家が、どう動くかわからないし。


「俺としては弟を利用するようで嫌だったのだが……あいつを追放してしまったのは、俺の不徳の致すところだ。俺があいつをきちんと見てやっていなかった……兄として、国王として失格だ」


「ですから、あの場で謝ることは許可したではありませんか」


「それはそうだが……」


「本来なら、いくら王弟とはいえ貴方が頭を下げてはいけないのですよ?」


「わかってる……! だが、俺は弟に嫌われたくない……!」


「……では、そういう態度を取れば良いのでは?」


「……それができたら苦労はせん」


「では、これから頑張れば良いかと」


その言葉に、俺はぐうの音も出なかった。


マルスには叱ってばかりだったし、今更どうやって可愛がれば良いのだ?


……どんな政治案件より難しいかもしれない。




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