180話 ゼノスさんと、しばしの別れ

その後、宰相さんが咳払いをして仕切り直しとなる。


「……では、話を進めましょう。マルス様のおかげもあって、予定より早く国を安定させることかできました。食料もそうですが、他にも色々と」


「他ですか?」


「ええ、そうです。それに関しては特に気になさらないでください。結果として、結婚式も予定より早く執り行うことにしました。今のタイミングでやれば、民達も祝福してくれるでしょう」


他に影響与える事したっけ? ……うーん、よくわかんない。

まあ、何か兄さんの役に立ったなら良いか。


「そういうことだ。もちろん、お前にも出席してもらう」


「はーい、仕方ないですね。何かすることはあるんですか?」


「いや、特にない。問題を起こさなければそれでいい」


「ひどっ!? 俺が問題をいつ起こし……ナンデモナイデス」


兄さんの顔色が変わったので戦力的撤退である!

そういや問題しか起こしてなかったよ!


「全く……それでは、こんなところか。ひとまず、お主らも疲れているだろうから休むと良い。後日、改めて連絡しよう」


「はい、ありがとうございます」


「……マルス、良く帰ってきたな。まあ、その、あれだ……会えて嬉しいぞ」


「兄さんがデレた!?」


「ええいっ! ささっと下がれ!」


「ひゃい!!」


兄さんが再び玉座から起き上がろうとするので、俺はとっとと退散するのだった。


玉座の間から出て、三人と合流する。


「ゼノスさん、二人をありがとうございました」


「良いってことよ……んじゃ、俺の役目は終わりか。早く俺が帰らないと、親父がこっちに来れないからな」


そうだった……隣国との国境を守るのがセルリア家の役目だ。

結婚式とはいえ、当主と嫡男が同時に家を空けるわけにはいかない。

入れ替わりで、オーレンさんが来るってことだ……ガクガク。


「そ、そうですよね……本当に色々とありがとうございました。あちらで過ごせた日々は楽しかったです」


「まあ、俺も良い息抜きになったさ。久々に馬鹿をやれて楽しかったし……またやれたら良いな」


「ええ、きっと。また来てください。もしくは、俺達が遊びに行きます」


「ああ、その時を楽しみにしてるさ」


すると、シルクがゼノスさんの前に立つ。

その顔は、少し泣きそうに見えた。


「お兄様……その、お元気で」


「おいおい、なんて顔をするんだよ。ったく、泣くのは好きな男の前にだけしとけって」


「な、泣いてませんの!」


「へいへい……シルク、セルリア家の者として引き続きマルス様を支えろ。そして。あの親父のこともよろしく頼む……親父はお前に会いたいはずだし」


「……はいっ、しっかり務めてまいります」


「ああ、俺の自慢の妹だから心配いらないな」


そう言い、シルクの頭を撫でる。

その姿は、お兄ちゃんそのものだ。

そっか……シルクも寂しいよね。

こんなに長い時間いたことは久々だったって言ってたし。


「も、もう! 頭を撫でないでくださいませ!」


「たまにはいいだろ、俺だって妹は可愛いんだし」


「……むぅ、仕方ありませんね」


「俺は結婚するつもりはないし、はやいところ甥っ子か姪っ子を頼んだぜ」


「……そ、それって……もう! 何を言ってるんですか!?」


シルクの顔が拗ねた顔から、恥ずかしがる顔に代わっていく。

この辺りは、お兄ちゃんにだけ見せる顔って感じだ。

ウンウン、可愛いくて良いね。


「ははっ! まあ、色々とあったが……久々に可愛い妹と過ごせて楽しかったぜ」


「……それは、私もですの」


「おっ、素直じゃん。マルス様にもそれくらいで……」


「わ、わかりましたから! 早く帰ってください!」


「へいへい、わかったよ。んじゃ、またな」


そして軽くウインクをし、颯爽と去っていく。


最初から最後まで掴み所のない方だったけど……色々と周りの人のことを考えてる人だった。


楽しい人だし、気配りができる人だ。


口約束じゃなくて、また一緒に遊べたらいいね。





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