179話 対面

……ほんと懐かしいや。


あの時は、いきなり記憶が戻って混乱したっけ。


訳も分からないまま、とにかくがむしゃらにやってきたけど……。


ようやく、その一区切りができそうだね。


そんなことを考えつつ視界の端を見ると、周りには家臣の人達が並んでいる。


そんな中、俺はロイス兄さんの前に立つ。


その顔は相変わらずやつれていて、こっちが心配になるくらいだ。


「マルスよ、よく帰った」


「はい、兄上もお元気そうで何よりです」


「シルクにリンよ、お主達も元気そうだな。マルスを助けてくれたこと、感謝する」


「いえ、私など大したことはしてませんわ。全ては、マルス様のお人柄がなせる業でしょう」


「はい、シルク様の仰る通りかと。私達は、それを手伝ったに過ぎません」


「全く、マルスには勿体ない娘達だ。それで……それがドラゴンか?」


そこで、ロイス兄さんの視線がルリに向く。

周りの人達も、興味津々の様子だ。

当たり前の話だけど、誰も見たことない生き物だしね。


「キュイキュイ!」


「マ、マルスよ、なんと言っているのだ?」


「多分、こんにちはかな?」


「キュイ!」


俺の方を向き、しきりに頷く。

本当に賢い子だね。


「ルリ、この人は俺のお兄さんに当たる人だよ」


「キュイー?」


「ライル兄さんとは別だよ」


「キュイ!」


すると、ルリが兄さんにお辞儀をする。


「ほう……親より賢いとみた」


「兄さん? 酷くない?」


「う、うむ……あぁー、いや……」


「どうしたの?」


俺がそう答えると、兄さんの眉間にシワが寄る。

けげっ……これは怒られるパターンだ。

すると、隣にいる宰相さん……ルーカスさんが兄さんを小突く。

そんなことはできるのは、この国において一人だけである。


「国王陛下、しっかりなさってください。顔がにやけるのは後でいいですから」


「わ、わかっている」


「……にやける?」


えっ? あの顔ってにやけてんの?

俺には不機嫌そうにしか見えないんだけど?


「コホン……マルスよ、辺境開拓ご苦労であった。私の予想をはるかに超え、お前は良くやってくれた。その影響は、この王都にも及んでいる。兄として嬉しく思うと同時に、この国の王として礼を言う」


「……なんの罠ですか?」


「……なに?」


「ロイス兄さんが俺を褒めるなんて……そうか! 入り口から盛大なドッキリだったんだ!」


「ば、ばかもん! そんなわけあるかっ! そんなことしたら金の無駄遣いだろうに!」


「じゃ、じゃあ、何のために……?」


「な、なんのって……」


すると、ルーカスさんがわざとらしく咳をする。

これは、いつも注意されるパターンだ。


「お二人共、落ち着いてください。ここを何処だと思っているので? 今回は公式の場でもないですし、ここには信頼できる者達しかいませんが、少しは自覚を持って頂きたいですな」


「う、うむ」


「は、はい」


「ですが、マルス様の反応も無理はないかと。おそらく、あの地にいては実感もないでしょうから。マルス様、貴方の魔石や食料によって多くの民が救われました」


「それもそうだな。ひとまず……皆、お前には感謝をしている。そして、辺境に追いやってすまなかった」


周りを見ると、家臣達も頷いている。

……そうか、これはドッキリではないんだ。

だったら、俺も真面目に答えないといけないよね。


「……いえ、俺が追放されたのは当然のことかと。民の税金を使って、自堕落な生活を送ってましたから。ゆえに、それを少しでも還元したに過ぎません」


「だ、大丈夫か? 熱でもあるんじゃ?」


「……もう! 人がせっかく真面目にしたのに! ロイス兄さんのアホ!」


「アホとはなんだっ! 兄に向かって!」


「うひゃぁ!? ご、御乱心だっ! 誰か止めてェェ〜!!」


「こ、国王陛下っ! 落ち着いてください!」


玉座から立ち上がろうとする兄さんをルーカスさんが必死に止めている。

ふぅ、どうやら命拾いしたようだ。


「……全く、お前ときたら」


「いえ、今のは兄さんが悪いかと」


「ええ、国王陛下。私もそう思うかと」


「ぐぬぬ……」


「ふふ、相変わらずですの」


「ええ、そうですね。なんか、帰ってきたって感じかします」


二人の言う通り、俺とロイス兄さんはいつもこんな感じだった。


記憶が戻ったことでどうなるか心配だったけど……。


やっぱり、ロイス兄さんはロイス兄さんだね。

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