178話 懐かしき場所

 結局、わけもわからないまま……次々と人々から歓迎の声をかけられる。


 途中で騎士達も合流して、そのまま王城への橋を渡っていく。


 ここまできたら人々は来れないので、流石に静かになった。


「な、なんだったの?」


「わかりませんけど……まあ、狙いは想像できますわ」


「狙い? わざとってこと?」


「いえ、強ち間違いではないですけど……とりあえず、ご本人に聞きますわ」


「ご本人って……」


「当然、マルス様のお兄様——ロイス国王陛下ですわ」


 その後、城の目の前で馬車から降りる。

 そしてゼノスさんの先導の元、城の門の前にいる兵士に近づいていく。

 隣にはシルクとルリ、後ろにはリンが、その更に後ろにはラビやシロがいる。


「ゼノス様、ご苦労様です」


「ああ、そちらもな。マルス様をお連れした、通してくれるな?」


「はっ、お知らせは受けております。マルス様、おかえりなさいませ」


「お噂はかねがね聞いております。全く、我々も騙されてましたよ」


 この二人の門番は顔見知りだ。

 出ていくときもいたし、城から抜け出す時には何時も顔を合わせていた。


「はは……よくわかんないけどね」


「なるほど、それを含めての擬態ということですか」


「いやはや、参りました」


 本当にわかってないんだって!

 お願いだから、誰か説明をしてぇぇ——!!





 俺が突っ込む暇もないままに、城の中に通される。

 当然、ルリは目立つ。


「お、おい? アレって……」

「噂のドラゴン?」

「マルス様が使役してるとか……」

「聖なる生き物と言われてるくらいだろ?」

「あのマルス様が……」


 ルリは初めての場所で興奮しているのか、辺りをキョロキョロと見回している。

 ルリがその気になれば、城の中を飛び回ることは可能だ。


「キュイキュイ」


「ルリ、良い子だから静かにね」


「ルリちゃん、私から離れてはダメですわ」


「キュイ」


 頭のいい子なので、すぐに理解してくれたみたい。

 生まれたばかりでは、こうはいかなかったよね。

 連れてくるタイミングとしては良かったみたい。

 そして……懐かしき玉座の間の前に到着する。

 ここは、俺がロイス兄さんに追放された場所だ。

 同時に、俺が記憶を取り戻した場所でもある。


「あぁー疲れた。ではマルス様、あとはどうぞ」


「もう、お兄様ったら。せっかく、さっきまで威厳があってかっこよかったのに。そういえば、近衛騎士だったことを思い出しましたわ」


「勘弁してくれよ。あんなん、肩が凝って仕方がない。ここからは、マルス様とシルクとリン……残りは悪いが、ここに残ってくれ。獣人とか関係なく、二人には荷が重いだろ」


「ぼ、僕たちは平気です」


「き、緊張しちゃうもんね」


 ゼノスさんのいう通り、作法を知らない二人には厳しいだろう。

 中には獣人嫌いの人もいるから、そこを突いてくる人もいるかもだし。


「キュイキュイ」


「ん? ルリも行きたいの? うーん、どうしよう?」


「あっ、忘れてた。国王陛下が、ドラゴンは連れてきて良いってよ」


「キュイ!」


 嬉しいのか、ルリが空をくるくると舞う。

 その飛ぶ姿は安定しており、もう立派なドラゴンって感じだ。


「もう! お兄様!」


「ははっ、すまんすまん。そんじゃ、二人は俺に任せておけ」


「すみません、ゼノスさん」


「なに、良いってことよ。堅苦しいのは嫌いだしな」


「同感ですねー」


「だよなー」


 すると、シルクから冷たい視線を向けられる。


「お二人共?」


「「ごめんなさい」」


「も、もう……息ぴったりじゃないですか」


「そりゃ、将来の義弟だからな」


「……ふえっ?」


「ん? そうなんです?」


「今回のは、そういう意味でもあるんだよ。ほら、待ってるからささっと行けって」


 俺とシルクはゼノスさんに背中を押され、扉の前に立つ。


「と、とりあえず、行こっか?」


「は、はい」


「では、私はルリを見てましょう」


「キュイー」


 そうして、玉座の間の扉が開く。


 つまり……いよいよ、ロイス兄さんと対面ということだ。

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