173話 円満?

俺がゼノスさんを連れて、シルク達に近づくと……。


「マルス様、お兄様」


「やあ、シルク。ちょっと疲れたから、休憩してもいい? いやいや、挨拶するのも楽じゃないや」


「ふふ、仕方ありませんわ。リン、次は私達が挨拶に行きますの」


「ええ、そうですね。では、私達はこれで」


リンとシルクが立ち上がり、俺に目配せをして去っていく。

どうやら、お膳立ては整ったみたいだ。

姉さんとバランさんを、ここに引き止めておいてくれと頼んでおいた。

それと、シルクがいたらゼノスさんは話し辛いかもしれない。

なので、理由をつけて去るようにとも。


「あら、嬉しいわ。次はマルスなの?」


「うん、明日にはまた出かけちゃうし」


「みんなして私に気を使って……嬉しいけど、少し寂しいわ」


「寂しいですか?」


「そうよ。みんな、すっかり大人になっちゃって。私ってば、すっかりおばさんみたい」


……ここにライル兄さんがいなくて良かった。

もしいたなら、余計なことを言ったに違いない。

そしたら、この作戦も台無しである。


「そんなことないよ。ねっ、二人とも?」


「ええ、その通りですぞ」


「まあ、そうっすね」


そして、四人掛けのテーブル席に座る。

姉さんの隣には俺が、対面にはゼノスさんが座ることにする。

そうなると、当然……。


「おい、お前も座れ」


「むっ? い、いや、しかし……」


「さっきは女性陣だけだったからアレだが、俺とマルス様がいるから平気だろ。ったく、相変わらずの堅物め」


「う、うるさい! 私は護衛のために……」


「へいへい、そうですか」


相変わらず、この二人は水と油といった感じだ。

もちろん、仲は悪くないと思うけど、タイプが違いすぎる。


「バランさん、俺からもお願い」


「バラン、私も立っていられると困るわ」


俺と姉さんが言うと、渋々ながらゼノスさんの隣に座る。


「……お二人が言うならば。言っておくが、お前のいうことを聞いたんじゃないからな?」


「わあってよ、いちいち細かい奴だ。そんなんだからモテねえんだよ」


「ほっとけ」


ど、どうしよう? よく考えたら、俺ってこの面子で話したことないや。

やっぱり、シルクかリンにいてもらった方が……いや、俺が自分の都合で始めたんだ。

だったら、それくらいは責任を取らないと。


「姉さん、この二人っていつもこんな感じだったの?」


「ええ、そうよ。小さい頃から、顔を合わせれば言い合いしてたわ。ふふ、相変わらずで懐かしいわよ」


「ライラ様、そりゃないっすよ。こいつはともかく、俺は大人っすから」


「馬鹿者。大人だったら、ライラ様にそのような口を利くわけがなかろう。お前こそ、いい加減真面目に……」


すると、一瞬だけゼノスさんが天を仰ぐ。

そして戻ってきた時、何かを決めた表情になっていた。


「あぁー、はいはい。ったく、そんなんじゃ女にモテないぜ? ライラ様、よければこいつをもらってくれません? こんなんじゃ、一生結婚できないんで」


「……っ!?」


バランさんがあまりの衝撃に、口をパクパクとしている。


「あら、そんな言い方は可哀想よ。それに、バランは良い男だわ。お兄様の信頼も厚いし、仕事もできるし。王宮にだって、彼のことを良いっていう女性もいるわ」


「へぇ、そうなんすね」


「バランみたいな若い子に、私なんかを押し付けたら可哀想よ」


「そ、そんなことは……ゴホッ!」


なんとか気力を取り戻したバランさんだが、すぐにむせてしまった。


「ほらほら、水を飲みなさい」


「す、すみません、お見苦しいところを……」


「ふふ、いいじゃない。貴方は少し真面目が過ぎるわよ」


姉さんがバランさんの世話を焼いてる……ふむふむ、確かに悪くはない絵だね。


「ったく、仕方ない奴」


「むしろ、あなたの方が心配よ。女の子を取っ替え引っ換え……」


「まあ、俺はモテてるんで」


「全く、否定できないのが腹立つわね。そうねぇ……いい加減に一人に絞ったら?」


「そうっすね……ライラ様が結婚してくれるなら考えるっす」


「お、おま……」


……言ったぁぁぁ!? さらっと言ったよ!?

ね、姉さんの反応はいかに!?


「……それは無理よ。私と貴方では、そもそも立場があるもの」


「まあ、そうっすよねー」


「それに、私のタイプじゃないもの」


なんと!? そもそも姉さんのタイプじゃないと!?


「はいはい、知ってますよー」


「真面目な話、貴方には振り回してくれる子がいいわ。根本的に、私と貴方は似てる。同じタイプだから上手く行くかもしれないけど……多分面白くはないわよ」


「そうかもしれないっすね……まあ、ライラ様には堅物が合ってますよ。んじゃ、俺は明日の準備があるんで」


そう言い、席を立つ。


「お、おい?」


「バラン……親友、ライラ様のこと頼んだぜ? 王都に人が行き、ここにはお前しか近衛はいないんだ」


「……ああ! 任せておけ!」


「おう」


そして、最後に俺の耳元に近づき……。


「マルス様、感謝するぜ。おかげで……今度こそ、すっきりした気分で帰れる」


そう言い、足早に去っていく。


余計なお世話かなと思ったけど……少しは力になれたかな?






~あとがき~


みなさま、おはようございます。


いよいよ明日、2巻の発売となります。


そして、近況ノートには書きましたが……コミカライズが決定しました!


これも一巻を買って下さった方々のおかげでございます(一巻の売り上げが影響)


もしよろしければ、2巻も買ってくださると嬉しいです(*´∇`*)


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