174話 出発です

 次の日、いよいよ王都へと出かける日になり……。


 俺達は準備を済ませて、都市の入り口で挨拶をする。


「ライラ姉さん、悪いけどよろしくね。と行っても、俺は出来れば行きたく……」


「ダメよ。しっかり、お兄様に叱られてきなさい」


「えぇ!? 叱られることは前提なの!?」


「仕方がないわよ。お兄様は、マルスを叱るのが仕事だもの」


「そんな仕事はいらないよぉ〜」


「ふふ、それくらいは許してあげなさい。私達だと、甘やかしすぎてしまうもの」


「……はーい」


 嫌だけど仕方ない。

 ……なんか理不尽な気もするけど。


「そういえば、王都に行ったら師匠のところに行ってね」


「師匠? なんの話?」


「……マルスゥゥ?」


 笑顔から一転して、ライラ姉さんの顔が強張る。

 ま、まずい! こんな時はリンえもんだ!


「リン!」


「はいはい、聞いてましたよ。あれですよ、ライラ様の師匠にルリを見てもらうってやつです」


「……ああっ!」


 そういや、ルリが生まれた頃聞いたかも。

 姉さんの師匠が研究者とかで、一度見せて欲しいとか。


「全く、仕方ないわね」


「いやいや、姉さん。そんな前のことを覚えてるわけないよ」


「そうですよ、ライラ様。マルス様を誰だと思ってるんですか? マルス様ですよ?」


「リンさん? 言葉がおかしいからね? 酷くない?」


「私は覚えていたので」


「ぐぬぬっ……!」


 これは形勢不利だ、なんとかしないと……そうだ!


「さて、ルリ」


「キュイ?」


「喜ぶのは良いけど、色々と約束はしてもらうからね?」


「キュイー?」


 首を傾げて、どういうことー?っと言っているみたいだ。


「うーん、そうだね……まずは、王都では俺達の言うことを聞くこと」


「キュイ!」


 その顔は、いつも聞いてるよとでも言いたげだ。


「うんうん、わかってるよ。ルリがいい子だって言うのはね」


「キュイ〜」


「ただ、残念なことに良い人ばかりじゃないから。ルリを攫ってしまう人だっているかもしれない」


「キュイ!?」


 目を見開き、驚いている。


「うんうん、びっくりするよね。だから、いつも以上に言うことを聞くこと。知らない人についていかないこと。誰かと一緒に行動すること……守れるかな?」


「……キュイー!」


「よし、良い子だ」


「ふふ、ちゃんとパパをやってるわね」


「ええ、そうですね」


 ふふふ、これで話が逸れたぞ。

 まあ、たまにはしっかりしたところを見せないとね。

 すると、用事を済ませたシルクが駆けてくる。


「すみません、おまたせしてしまいましたわ。ですが、これで引き継ぎは出来ましたの」


「いやいや、別に平気だよ。むしろ、ご苦労様」


 シルクには溜まっていた仕事と、この先やるべきことの準備をしてもらっていた。

 そう、帰ってきたらいよいよ魔獣を飼育する計画を実行するために。


「ええ、ほんとに。それに私は平気よ、マルスを可愛がっていたから」


「それなら良かったですの」


 そして、姉さんが俺を優しく抱きしめる。


「マルス、私の分もお兄様を祝ってあげてね。あと、ライルの分も。ああ見えて、お兄様は寂しがり屋さんだから」


「うん、任せて。ロイス兄さんがさみしがり屋ねぇ」


「ふふ、ほんとよ? さて……シルクとリン、マルスを頼んだわ」


「はい、私にお任せを」


「ええ、もちろんですわ」


 最後に、姉さんがゼノスさんに近づく。


「ゼノス、王都ではマルスをよろしくね。貴方が守ってくれるなら安心だわ」


「へいへい、わかりましたよ。バラン、お前も頑張れよ」


「ふんっ、言われるまでもない。今度は、いつ会えるかわからないが……また、ライル様と三人で飲むとしよう」


「おっ、お前にしては珍しく良いこと言ったな。これは雨が降るぞ」


「うるさい。全く、口の減らないやつだ」


 ふんふん、どうやら仲直り……ってわけじゃないけど、元には戻ってたかな?


 挨拶を済ませた俺達は、王都へと出発するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る