172話 おやつの時間

結局、二人に腕を組まれたまま、屋敷を出ると……。


そこでは、すでに住民や姉さん達が集まっていた。


皆がテーブルや椅子を用意して、座って待っている。


そんな中、ライラ姉さんが話しかけてくる。


「マルス、急にどうしたのよ?」


「んー、いや……特に深い意味はないよ。ただ最近は、こういうことをする機会がなかったからさ。俺ってば、領主なのにあちこち行っちゃうし」


「それは確かにそうね。私が領主だと思ってる人もいるくらいだから」


「じゃあ、姉さんが代わりに……はーい、頑張ります」


ライラ姉さんが怖い顔をしたので、言葉を飲み込む。

きちんと領地を開拓したならともかく、今投げ出すのは無責任過ぎるし。


「ふふ、それならよし。マルス、危なかったわね?」


「は、はい!」


「ほら、しっかりなさい。みんなが挨拶を待ってるわよ?」


前を向くと、住民達がクスクスと笑っている。

バカにされた感じではなく、微笑ましいって感じで。

照れ臭くなりつつ、俺は台座の上に立つ。


「えー、みなさま。本日は急なお誘いで申し訳ないです。ですが、集まってくれてありがとうございます。今日集まって頂いたのは……」


ここに兄さんがいたなら『早くしろ!』とか突っ込んでくれるんだろうなぁ。

もしくは、レオやベアあたりでも……やっぱり、少し寂しいや。


「マルス様ー! 早くしてくんないっすかー!」


「もう! お兄様!」


「……ゼノスさん」


どうやら、気を使ってくれたらしい。

気配りができて……こういうところは、シルクに似てるかもね。

だからこそ、この状態のままにしておけないよね。


「あちゃー、そうですよねー。まあ、簡単に言うと……お騒ぎしたいだけなんで、みんな適当にやってください。えっと、こんな領主ですがよろしく! また出かけてしまうけどすみません!」


「こちらこそ!」


「ついていきます!」


「領地のことはお任せください!」


住民から次々と励ましの言葉が届く。


「ありがとうございます! それでは、量だけはあるのでどんどん食べてください!」


俺の言葉を合図に、みんながフレンチトーストにかじりつく。


「うまっ! カリッとしてフワってしてる!」


「はちみつなんて贅沢なものを……ありがたや」


「お母さん! 美味しい!」


「ええ、そうね。マルス様に感謝しないと。休憩まで貰えた上に、こんなご馳走まで」


よく考えたら、卵やはちみつなどは、平民の方々にとってはご馳走だ。

そもそも、おやつという感覚がない。

でも、三時におやつの休憩とか入れても良いかもしれない。

またベアが帰ってきたら、一緒にハチミツを取りに行こうっと。





その後、ある程度人々に挨拶を終えたら、俺はとある人物の元に向かう。


その人物は、少し離れた場所で佇んでいた。


まるで、誰かを避けるように。


「ゼノスさん、さっきはありがとうございます」


「良いってことよ。んで、どうした?」


「一緒にあの席に行きませんか?」


俺が視線を向けた先には、ライラ姉さんとシルク、そしてリンがお茶をしている。

その後ろには、バランさんが立って護衛をしている。

多分、座れと言われたのに断ったのだろう。


「いやいや、女子だけの中に行くのはきついぜ」


「俺もいますって……これは王族命令です」


本当は使いたくないけど、ある意味で一番効果がある言葉だ。

というより、この言い方をすれば……免罪符になるはず。

俺に言われたから仕方ないっていう。


「おっと、そうきたか……ったく、お節介な人だ。そういうところは、ライルに似てやがる」


「うーん、喜ぶところですかね?」


「いや、そこは喜べよ。ライルが墓の下で泣いてるぞ?」


「いや、そのセリフに泣いちゃいますよ? 兄さん、生きてますから」


「ははっ! 間違いない! ……やれやれ、マルス様に命令されちゃ仕方ねえか。んじゃ、付き合ってやんよ」


多分、ゼノスさんもこのままでは良いとは思ってない。


もちろん、お節介かもしれないけど……このまま、さようならよりはマシだと思うから。





~あとがき~


皆さま、おはようございます。


5月17日発売の、2巻の特典情報が解禁となりました。


メロンブックス様にてラビの特典SSを、電子限定でシルクの特典SSをご用意しました。


本で買う方も電子で買う方にも楽しめるように、このような形にしましたのでお好きな方をお選びください。


ちなみに、書き下ろしは二万字以上あり、その多くは水着回です……はい、水着回です。


大事なことなので二回言いましたw


当然、カラーページには……見てからのお楽しみに。


神絵師と呼ばれる、夜ノみつき様の絵がご覧いただけます。 (それだけでも買う価値があるかと)


コホン……引き続き続刊するために買って頂けたら嬉しいです。


それとドラゴンズノベルコンテスト用に新作を投稿しております。


もしよろしかったらフォローをしてくださると嬉しいです。


龍殺しの料理人~最強のおっさんは拾った幼女とスローライフする~


https://kakuyomu.jp/works/16817330650578551379/episodes/16817330650578837191

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