171話 のほほん
三人で協力して、ひたすらフレンチトーストを作り続け……。
その甲斐もあり、短時間で大量のフレンチトーストを作ることが出来た、
「ご主人様、こんなにたくさん作ってどうするんですかー?」
「とりあえず、楽しくていっぱい作っちゃったけど……」
「俺たちだけで食べるのもあれだから、みんなにも配ろうかなって。幸い、パンはいくらでもあるし、卵は日持ちしないから使い切った方がいいし」
きっとリンのことだから、その辺りはわかってるだろうし。
もしくは、シルクが気付くよね。
「あっ、そういうことなんですね〜」
「それじゃあ、お盆に乗せて運んじゃいましょー!」
すると、タイミングよくリンが厨房に入ってくる。
「やれやれ、そうなると思ってましたよ」
「あっ、聞こえてた?」
「ええ、もちろん。一応、そのように手配はしておきました。全員ではないですが、手の空いてる者は広場に集まるようにと」
「さすがは相方のリンだね」
「だから相方では……」
するとシロとラビが、たたっとリンに駆け寄っていき……なにやら耳打ちをしている。
「リンさん……でも、相方ですよ? ……とも取れるかなぁって」
「そうですよ〜ご主人様って……ですし。だから、どんどん距離を詰めないと」
「……なるほど。確かに、二人の言う通りですね。というか、二人に言われるは……あぅ」
何やら、リンが恥ずかしがっている……むむっ、疎外感です。
「えへへ、リンさん可愛いです」
「はい、そうなのです!」
「や、やめなさい!」
「なになに? 目の前でこしょこしょ話されると気になるんだけど……」
するとリンが首を振り、いつもの凛々しい表情に戻る。
うーむ、個人的にはもっと見てたいところだったのに。
「いえ、お気になさらないでください。とりあえず、私は相方で良いです」
「いや、当然だよ。俺はリンがいないと困るし」
リンがいなかったら、誰が俺にツッコミを入れてくれるっていうんだ。
シルクに求めるのはアレだし、シロ達にはまだ早いし。
「ほらほら、リンさん」
「ご主人様が、リンさんいないと困っちゃうって言ってますよ〜?」
「ふ、二人とも、いい加減にしなさい! ほら! ささっと広場に運ぶ!」
「は、はぁーい!」
「わわっ!? い、いってきまーす!」
シロとラビがフレンチトーストを乗せたお盆を持って、慌てて厨房から出て行く。
残されたリンの顔は、ほんのりと紅くなっているような気がする。
「まったく……」
「まあまあ、良いじゃん。それだけ、元気になったってことだから。遠慮がなくなってきて、ようやく年相応って感じだし」
出会った頃の二人は、まだまだ遠慮があった。
それが良い意味で、なくなってきたかな。
少し離れてる間に、随分と成長したみたいだ。
「まあ、そうですけど……あの二人は、連れて行かなくて正解だったかもしれないですね……街道整備の工事に」
「うん? どういうこと?」
「いえ、あの二人は我々に甘えてる部分がありましたので。人族はもちろんのこと、ライラ様やバラン様とも距離がありました。ですが、我々がいないことで自ら話しかけたりしてたみたいですし」
「あぁ、そういうことね。確かに、弟子入りするくらいだもんね」
「ええ、そういうことです。あの若い子達が変わっていければ、次世代に良い影響を与えてくれるかと」
今までは俺たちを介して、姉さん達と接してきた。
でも、俺たちがいないから自分でやるしかない。
置いていかれたことも相まって、成長しなきゃと思ったのかも。
「なるほど……どうやら、俺のやってることは無駄じゃなかったみたいだね。それまでは、無駄だらけだったけど」
「いえ、そんなことありませんよ。そもそも、私が救われていなければ、彼女達も信用しなかったでしょうから。二人を見ていると、昔の自分を思い出しますね」
「それも、ほんの気まぐれだったし」
「それで良いんです、私が救われたのは事実なので……マルス様、ありがとうございます。私は、今……とても幸せです」
その顔はとろけており、思わずドキッとしてしまう。
「そ、そう? お、俺たちも行こうか!」
「ふふ、そうですね」
すると、リンに腕を組まれてしまう。
当然ながら、豊満なお胸さんが当たっております……バンザイ!
違う違う! そういうことじゃない! リンはこういうことしないし!
「あ、あの? リンさんや?」
「なんですか?」
「い、いえ……ナンデモナイデス」
「私だって、昔みたいに甘えてもいいでしょう?」
「……好きにしてください」
「はい、そうします」
結局俺は、その状態のまま屋敷の中を歩くのだった。
余談だが……シルクに見つかって「ずるいですわ!」と言われ、もう片方の腕を組まれたことを伝えておこう。
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