169話 提案

 屋敷に戻った俺は、早速シロを探しに行く。


 ひとまず。玄関で呼びかけることにする。


「シロ! どこー!?」


「はぁーい! ここですよー!」


「あっ! ご主人様!」


 すると玄関脇の通路から、シロとラビが現れた。

 どうやら、二人で一緒にいたようだ。


「おっと、丁度いいところにいたね」


「どうしたんですか?」


「いや、今から時間はあるかな?」


「はい! これから休憩なので平気です!」


「悪いんだけど、おやつを作るから手伝ってくれる? ふふふ、新メニューを作っちゃうよ〜。それで、良いことを考えついたから」


 明日から王都に行くし、作るならタイミングは今だろう。

 一緒に食べる機会を作って……二人が、少しでもすっきりするように出来たら良い。

 それにバランさんと、あれから話してないみたいだし。


「マルス様、また勝手なことを……」


「あっ! 良いですね!」


「うん! わたしもお手伝いします!」


 リンの言葉を遮って、二人が俺に同調する。


「ウンウン、二人は素直で可愛いなぁ」


「……悪かったですね、可愛くなくて」


 ま、まずい! とっさに出てしまったァァァ!

 急いで空気を変えねば!


「リンさんは美人さんです! 僕の憧れです!」


「うん! リンさんは美人なのですよ!」


「……ふふ、二人共ありがとうね」


 ふぅ、アブナイアブナイ……妹分である二人のおかげで助かったみたい。

 まあ……俺もリンを美人さんだと思ってるけど、最近はなんだか言い辛い気がする。

 前はもっと、気楽に言えたのになぁ。


「……さ、さて! メニューは決まってます!」


「はいはい、わかりましたよ。それで、何を作るんです?」


「そう——フレンチトーストだよ!」


 俺が忘れていたのは、これである。

 いや、どうして今まで作ってなかったのだろうか。

 この世界にはパンケーキはあるのに、フレンチトーストはないみたいだし。


「ふれんちとーすと?」


「なんですかー?」


 二人が可愛らしく、同時に首をかしげる。

 そんな普通の光景が、なんだかとても嬉しくなる。

 子供が子供らしくいられるって、やっぱり素敵なことだよね。


「私も聞いたことないですね」


「甘くて美味しいものさ!」


「わぁ……食べたいです!」


「えへへ、甘いの好きです!」


「よし、とりあえず厨房に行こうか。ないなら作れば良い、フレンチトーストってね!」


「ないなら作れば良い……普通では?」


「わ、わかってるし! むむっ、流石のツッコミのリンでも、これは厳しかったか」


 鳴かぬなら鳴かせてみせようは、流石に通じるわけないよね。

 ……俺のこれは、いつまで黙ってればいいのかな?

 うーん、そもそも言う必要があるのか……まあ、今は考えなくてもいいや。


「だから、ツッコミのリンじゃありませんし。そもそも、なんのことだか……」


「ごめんごめん」


「師匠ー! どうしたんですかー!?」


「ご主人様〜! 早く早く!」


 二人に至っては、俺を無視して先に歩いてるし。

 ……なんだか、少し寂しくなるマルス君なのでした。


「……ふっ、これが親離れってやつか」


「いや、親じゃないですから」


「流石ツッコミのリン」


「いや、だから……はぁ、もう良いです。でも、少し安心しましたね」


「うん? 何が?」


「いえ、二人がすっかり元気になったと思いまして。よく笑い、よく食べるようになりました」


 リンのその目は優しく、まるでなにかを思い出すかのようだった。

 多分、それはきっと……自分の過去の姿だろう。


「うん、そうだね。おどおどした感じも、すっかりなくなったし。それところが、俺への扱いも……慣れてきたしね」


「ええ、雑になってきたかと」


「リン? 俺がわざわざオブラートに包んでたのに!」


「ふふ、良いじゃないですか。これなら、王都に行っても安心ですし」


「あぁ、そういうことね」


 ……王都は、ここよりも獣人に対する扱いが良くない。

 記憶が戻る前の俺や、兄さんや姉さんも頑張っていたけど……やっぱり、若い俺達では力不足だった。


「正直言って、私も戻るのは嫌ですし」


「まあ……ね。でも、俺たちで二人を守らないとね」


「ええ、もちろんです。私にとっても、可愛い妹分ですので」


「リンさーん!?」


「ご主人様〜!?」


「ごめんごめん! すぐに行くよ! 先行ってて!」


 俺は二人を追って、厨房へと歩き出すのだった。






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