167話 バランさんとゼノスさん
その後、俺はこっそりとゼノスさんとバランさんを呼び出す。
作戦通り、姉さんはリンとシルクに任せてあるから大丈夫だ。
「マルス様、どうなさいましたか?」
「なんすかね?」
相変わらず、飄々とした感じでオーレンさんの息子さんには見えない。
あっ、今……ブーメランが飛んできた気がする。
多分、俺もそう思われているだろうし。
「そんなに見つめてどうしました?」
「い、いや、何でもないです」
「ほほう? あれですか? シルクのスリーサイズを聞きたいと?」
「……へっ?」
その瞬間、シルクの寝間着姿が脳裏に浮かんでくる。
それと同時に、普段ふと触れることがある柔らかな身体も。
「ふふふ、仕方ないっすね。では、今から聞いてきますので……」
「ちょっ!? 勘弁してくださいよ!」
「ははっ! マルス様は可愛いっすね!」
すると、我慢の限界を迎えたのか……バランさんの拳がオーレンさんの肩に刺さる。
「イテッ!!!!」
「ええい! いい加減にせんか! マルス様が優しい方だからと調子にのるでない!」
「へいへい、わあったよ。いや、なんか真面目な話っぽいからさ。その前に空気を軽くしただけだって」
「ふむ……まあ、それはわかる。だから、手加減してやったろうに」
……ゼノスさんは適当に見えるけど、計算高いというか気配りができる。
バランさんはお固いけど、きちんと力を抜くことも知ってる。
多分、二人のバランスが良いのかもしれない。
良いコンビというか……この二人に亀裂を入れることはしたくないなぁ。
「いやいや、普通の奴なら折れてるから。んで、どうしたんすか? わざわざ、ライラ様をシルク達に任せたりして」
「むっ? そうなのですか?」
そして、ゼノスさんは相変わらず頭が切れると。
バランさんは真面目な分、そういうことには疎そう。
……どっちが姉さんを幸せにできるだろうか?
いや、それは高慢だし自分勝手だよね。
最終的に決めるのは姉さんだし……俺にできるのは二人の意思確認くらいだ。
「まあ、そうなんですけど……俺って賢くないから単刀直入に聞きますね。お二人は、ライラ姉さんのことをどう思ってますか? その、女性としてって意味で」
「……そういう話っすか。まあ、綺麗な方っすよね。それに賢いし、気配りもできる方だし」
「わ、私は、近衛騎士です!ライラ様を、そのような目で見たことはございません!」
これまた対照的な答えが返ってきたなぁ。
うーん、バランさんはともかく……ゼノスさんがよくわからない。
「おいおい、嘘言うなって」
「う、嘘ではない!」
「まあ、それは置いといて……どういう意味っすかね? ただの姉の恋愛相談というか、興味本意ですか? それとも……第三王子としてですか?」
口調とは裏腹に、急に空気感が変わる。
これが、シルクの言っていた別の顔ってやつかな?
「……政治的な意味合いよりも、姉の幸せを思って行動であることは否定できないです。つまり、ただのマルスとしての質問だと思ってください。もちろん、答える義務はないので……」
「別に良いっすよ。政治的な意味でも答えますし。まずは、政治的に俺は無理っすね。うちに力が集まりすぎるので」
「それはシルクから聞きました」
「流石は我が妹だ。あと、ライラ様は素敵な女性なので俺とは釣り合いが取れないっすね。というわけで、バランがお勧めかと」
ふんふん、シルクのいう通りって感じか。
「わ、私は……」
「あっ、無理なら」
「いえ! ……私の家ならば、政治的には問題ないかと思われます。ただ、私とライラ様では釣り合いが取れない。何より……私はつまらない人間です。ゼノスの方が頭も良く楽しい家庭を築いていけるかと」
……なるほど、お互いがお互いを推すと。
これは、中々に難しいなぁ。
「はぁ? そんなわけないだろ。お前の方がいいに決まってる」
「い、いや」
「そもそも、お前はどうなんだよ? マルス様の質問に答えてないが……ずっと好きだったんだろ?」
「あっ、その辺りは無理には……」
俺がそう言うと、ゼノスさんが鋭い目で見てくる。
まるで、黙ってろとでもいうように。
「良い機会だ、はっきりさせようぜ。いつまでも、うだうだとうぜえから」
「お、お前に何がわかる! 私は近衛騎士! 王族の方を守護する者! その私が……そんな気持ちを抱いて良いわけがない!」
「はぁ? そんなこと聞いてねえから——近衛騎士である前に、バランしてどうかって聞いてんだよ! いい加減はっきりしろや!」
「……わ、私は……」
そのまま、バランさんは黙り込んでしまう。
そして、俺とゼノスさんは静かに待ち続けると……バランさんの顔が上がる。
「わ、私は……あの方を……ライラ様を好いています」
「……へっ、ようやく言ったか。こうして、口に出して言うのは初めてだな?」
「う、うるさい! そ、それでは! 私はこれで!」
そういい、顔を真っ赤にして去っていく。
「あらら……すまないっすね、マルス様。あいつ、全然耐性ないんすよ」
「ううん、こちらこそごめんなさい。軽はずみな行動だったね……自分のことしか考えてなかった」
ライラ姉さんためってだけで、二人への配慮が足りてなかった。
結果的には平気だったけど、諍いに発展しない保証もなかったよね。
「まあ、そうっすね。でも、良いんすよ。あいつもいつまでもうじうじしすぎだし。それに俺達に命令できる立場であるのに、俺達二人に話を任せてくれたこと……ありがとうございます」
「あ、頭をあげてください!」
「いや、これで心残りが消えました。いつも、あいつに聞いてもはぐらかされるんで。こういう場を用意してくれたこと、感謝いたします。これで……心置きなく領地に帰れます」
顔を上げたその目は、気のせいか何処か寂しそうに見えた。
本当に、これで良かったのだろうか?
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