166話 二人に相談

 次の日、俺は早速行動に移す。


 ゆっくりしたいけど、ここにいられる時間は少ない。


 あと、あの二人が同時にいることも。


 何より、大事なライラ姉さんのためだもん。


「リン、シルク、少しいいかな?」


「あら? どうしましたの?」


「珍しく真面目な顔ですね」


「酷くない? ……まあ、否定はできないけど」


 我ながら、真面目な話は苦手だし。

 できるだけ、のほほんと過ごしたいものです。


「それで、何ですか?」


「いや、ちょっとライラ姉さんについて考えてて……寂しそうだったから」


「そうですね……マルス様も中々一緒にはいられないですし、お友達になったセシリアさんも今はいませんし」


「やっぱり、そうでしたの」


「うん、シルクの言う通りだったよ。それで、姉さんに恋人でも出来たらどうなのかなって……もっといえば、家庭とか」


 年齢を考えれば、姉さんはとっくに適齢期だ。

 というより、成人が十五歳のこの世界では少し遅いくらいだ。

 ただ、それは俺のせいでもある。


「なるほど……そうですね、もうマルス様も成人しましたから。最近はしっかりと……ゴホンゴホン」


「リン? わざとらしく咳するのやめて?」


「それにロイス様もご結婚されますわ。ライル様もお相手は……まあ、どうなるかはわからないですけど。マルス様も、近頃は……コホンコホン」


「あの? シルクさん?」


「「ふふふ」」


 すると、二人が顔を見合わせて微笑んでいる。

 ……まあ、仲が良いならいっか。

 俺個人としては、アレだけど。


「と、とにかく! 姉さんにもいい相手っていうか……もちろん、無理強いはしたくないけど……ただ、そういうことを考えてもいいんじゃないかって。んで、姉さんの性格上自分から動くことはなさそうなんだ」


「それは言えてますね。気遣いができる方なので」


「はい、間違いないですわ。まずは、自分の幸せよりも人の幸せを優先してしまう方ですから」


「うん、俺もそう思う。それで、その相手を考えた時に……バランさんとゼノスさんはどうなのかなって」


 かたや侯爵令息、かたや伯爵家令息、どちらも王族の女性を娶るには十分なお家柄だ。

 むしろ、そのお家柄が一番の問題なので、二人が高位貴族出身だったのはラッキーだよね。


「ゼノス様とバラン様ですか……なるほど、そのお二人がいいと?」


「うーん、というかその二人くらいしか知らないし。そもそも王女である姉さんと対等に話せたり、接したりできる人は限られてるし」


「それはそうですわ。でも、バラン様とお兄様ですか……」


「シルク的にはどっちも難しい? 俺、その辺りのこと全然わかんないからさ」


「私もですね。では、シルク様にお任せします」


 自慢じゃないが、穀潰しのマルス君と呼ばれた俺。

 複雑な立場とか、階級とか全くわかりません!

 ……ほんと、我ながらよく王子なんてやってたよね。


「リンはともかく、マルス様……もう! だから、あれほど言いましたのに!」


「ご、ごめん! 大丈夫! 侯爵と伯爵が偉い事くらいはわかってるから!」


「それは当然ですわ」


 その辺りは前の世界のゲームや小説と近いから知ってる。

 国王、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵という順番だ。


「それで、その二人だと何か問題があるかな?」


「バラン様は近衛騎士ですし、伯爵家のご長男なので問題は少ないかと。ただお兄様だと、私の家に力が付きすぎかと思いますわ」


「どういうこと?」


「侯爵家というのは、王族の方を除けば一番位が高いですわ。それだけ力があり、発言力もあるということですの。その場合、反対する貴族達が出てくるかと」


「なるほど……そういう意味かぁ」


 力が集中しちゃうから、危ないってことか。

 あれ? ……でも、おかしくない?


「それなら、俺とシルクはいいの? 力ついちゃうよ? 確か、最初は俺が婿にって話だったでしょ?」


「……ふえっ!?」


「えっ? ……ああ! いや! 例えばというか……まだ先の話というか……」


 言ってから気づいた……まるで結婚することが前提じゃないか!

 いや元婚約者だし、俺としてはその気だから間違ってないんだけど……。


「わ、わかってますわ! ……えっと、それは……言い辛いですけど、マルス様が第三王子という観点から、そこまで力はつかないとの見解かと思いますの」


「ああ、そういうことね。ううん、平気だよ。たしかに、俺には派閥とかもないしね」


「はい、そうですわ。ライラ様は宮廷魔導師であり研究者でもあります。その派閥の大きさは凄まじく、私の家と結びつくと……さらに私とマルス様まで……その、あれをするといらぬ誤解を招くかと」


「うーん……めんどくさいけど、そう思う人がいるってことかぁ。俺たち、仲良くやってると思うけど」


 ほんと、どこの世界でも面倒な方々はいるみたいですねー。

 別に好きにさせてって思うけど……そうはいかないんだろうなぁ。


「それに、後々に困る場合がありますわ。私たちの代は仲が良くても、子供達……その先の方々まで仲が良いとは限りませんの」


「……あっ! そういうことか!」


「ご理解頂けたみたいで。その方々が徒党を組んで王家に逆らったら大変なことになりますわ」


「それはそうだね……つまり、ゼノスさんはダメってこと?」


「……その可能性が高いですわ」


「そっか……」


 すると、それまで黙っていたリンが手を叩く。


「色々と方法はありますし、本人の意思もあります。まずは、お二人と話し合ってはいかがですか? それこそ、男同士だけで」


「……うん、そうだね。ゼノスさんは領地に帰るし、バランさんはここに残るよね。そうすると、話せるチャンスは今くらいかも」


「ええ、そうだと思います」


「よし! 二人とも、相談に乗ってくれてありがとう。それじゃ、二人と話してみるよ」


「では、色々と手を打っておきましょう」


「そうですの」


 そうと決めた俺は、早速二人と相談をして……作戦を練るのだった。


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