国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

161話 シルクとのんびり

　その後、部屋に用意された遅めの朝ごはんを食べて、リンとシルクと一緒に部屋を出る。

「それでは、私はシロの鍛錬をしてきますね。出立する日までに、出来るだけ仕上げておかないといけないですから」

「うん、わかった。じゃあ、俺はルリの試験をしてこようかなぁ。というか、何処にいるのだろう？」

「今日は、ラビが散歩に行ってるかと。ついでに領地を散策してきたらどうですか？」

「うん、それも良いかも」

「では、私がご一緒しますの」

　そこで別々に分かれ、リンは庭の方に……。

　俺達は、まずはルリを探しに屋敷の外にいくのだった。

　そのついでに、久々にバーバラの中を歩いていく。

　そういえば、こうやって二人きりになるのは……あの時以来か。

　隣を歩くシルクを見て、思わずその口元を見てしまう。

　……今度は、いつして良いのだろうか？

「どうしたんですの？」

「い、いや！ なんでもない！」

「ふふ、変なマルス様。そういえば、お父様からお手紙が来てましたわ」

「な、なんで！？」

　キスしたことがバレた！？

　誰かが密告したのか！？

「なんでって、結婚式についてですわ。無論、お父様も出席しますが……どうやら、それとは別にお父様がお会いしたいって」

「な、なんの話かな？」

　だ、大丈夫だ！ よくよく考えてみたら、時間的に知られるわけがない！

　いや……あの人なら勘とかでわかりそう。

「それが、よくわかりませんの。多分ですが……私がしっかりやってるかを、確認するのではないかと思いますわ」

「そ、そうなんだ。それなら安心だね。シルクはしっかりやってるから。大丈夫、俺がきちんと伝えるから」

「まだまだですわ。でも……嬉しいですの」

　そのまま歩いていると、屋台のおじさんに声をかけられる。

「マルス様！シルク様！ お帰りなさい！ ブルズの串焼き食べますかね？」

「うん、ただいま〜。もちろん食べる食べる！ シルクは？」

「い、いただきますの」

「それじゃあ、出来立てを差し上げたいので少々お待ちください！」

　そう言われたので、近くにある椅子に並んで座る。

　そして、のんびりと待つことにする……なんだか、デートっぽくて良いね！

　これだよこれ！ 俺が求めていたのは！ スローライフっぽい！

「いや〜のんびりできて良いね」

「まあ、たまには良いですわ」

「大丈夫、今も仕事してるから」

「そうですの？」

「うん、ほら……見てごらん。これが視察ってやつだね」

　街行く人々を眺めると、そこには生気に満ちた人々がいた。

　元気に走り回る子供達、元気な声で商売をする人達。

　談笑する冒険者や兵士たち、お買い物をしている主婦らしき人達。

　獣人や人族関係なく、皆が楽しそうに過ごしている。

「確かに、以前より良くなってきましたわ」

「街道整備の間に、領地から離れてたからわかることもあるね」

「ええ、その通りですの。色々な変化に気づけますわ」

　正直言って、ずっと過ごしていたんじゃ気付かないくらいの変化だ。

　でも、出かける前より確実に雰囲気が良くなってきている。

　やせ細ってた獣人は見かけないし、嫌な空気感が減ってる気がする。

　状況が完全に改善されたわけじゃないけど、希望があるからだと思う。

　人は希望があれば、前向きになれるから。

　その後、のんびりと人々を眺めていると……。

「おまたせしました！ どうぞ、召し上がってください！」

「ありがとうございます。では、いただきます——うみゃい！」

「いただきますの……んっ、美味しいですわ！」

　醤油の香ばしい香りと、ブルズの脂がマッチして焼き鳥のような中毒性がある。

　その中には、ほんのりと甘みを感じる。

「これ、もしかして……ハチミツ使ってる？」

「へい！ ライラ様が一部を卸してくださいました！」

「なるほど、そういうことね」

　道理で美味しいわけだ。

　はちみつの成分で肉は柔らかくなるし、甘みが出て醤油の味が際立つし。

　うんうん、屋台で出すには完璧に近い食事だ。

　こういうのが、街道を行く途中にあったら良いね。

　前世でいうと、駅中にあるご飯屋さんみたいな感じで。

　それこそ、休憩所みたいのを作るかな。

「そういえば、お兄様が言ってましたわ。森に探検に行った際に、小さな巣をいくつか見つけたって」

「そうなの？」

「……マルス様？ 書類に書いてあったはずですが？」

　い、いかん！ シルクのお怒りモードだ！

　せっかくの良い雰囲気だったのに、それはまずい！

「そ、そうだったね！」

「もう！ しっかり見てください！」

「ご、ごめんなさい！」

「ははっ！ デート中なのに怒られちまいましたね！」

「いや〜参ったね」

「ふぇっ！？ こ、これってデートでしたの！？」

「あれ？ 違ったんですかい？」

「きょ、今日は違いますの！ 視察ですの！」

「そいつは失礼しやした。では、ごゆっくりどうぞ」

　ウンウン、シルクも住民から軽口を言われるようになったみたい。

　あんまりギスギスしたのは好きじゃないから、個人的には良い傾向だね。

「こ、これってデートだったんですの？ で、でも、見様によってはそうですわ……」

「うん？ まあ、どっちでも良いんじゃない？ 俺はシルクとのんびり出来て楽しいし」

「……私もですの」

　今更気づいたのが恥ずかしいらしく、両手を頬に当てている。

　はい、相変わらず可愛いです——ツンデレバンザイ！